第7話 あー、俺っていう残念な奴はですね。

 イヤホンから聞こえてきた声は憧れの藤宮さん。

 ではなくて同い年でショートの波多野だった。がっかり感が伝わらないよう気を付けながら状況を説明する。


「それで、何が問題なわけ?」

 俺が頼りなさげだから鍛えるため、という訳のわからん理由をかかげ、人よりきつく接してくる波多野が正直言って苦手だ。

 くりっとした瞳が小鹿を思わせる可愛らしいタイプなのに、発せられる言葉にいちいち棘を感じて、ついつい応戦口調になっちまう。

「だから、14歳の女の子が、添い寝希望の子が部屋にいないんだっての」

 なぜか添い寝希望に力が入る俺。


「はるかちゃん、そこにいるじゃない」

「そこってどこ」

「守野の膝の上。通信終わり」

「ちょっ、待っ…」

 くそ、切られた。へ?膝の上?にいるのは可愛いチワワさん。

 へ?

「ちょっとごめんね」

 手触りのよいロングコートをかき分けると、優しいピンク色の首輪が見えた。その先に下がっているお名前プレートに「はるか 090-〇〇〇〇ー〇〇〇〇」と書かれている。

 へええええええええ?!


 もう一度トランシーバーのスイッチを押す。

「今度は何」

「波多野、ひとつ教えてくれ。このチワワちゃんがはるかちゃん14歳、なんだよな」

「さっきからそう言ってる」

「今日は何か特別な日なのか?」

「あのねえ守野。あんたこのホテルのことなーんにも知らずにあてずっぽで応募して偶然かつラッキーにも採用されたわけ、それもムカつくけど」

 急な説教モードに身構えるがお見通しな上その通りだから言い返す言葉もなく、波多野の言葉を待つ。


「このホテルイノウエはね、あたしの祖父が通う前からずっと、どうぶつさんのホテルなんだけど。あんたホント何にも知らないまま来て呑気に裏方やってたらしいけどいっちょ前に藤宮さんに鼻の下伸ばしてマジムカつく」

 ぐうの音も出ない俺に波多野は容赦なくとどめを刺す。

「はるかちゃんは左ひざが外れやすい。ワンコの14歳が人年齢のいくつかわかる?あんたの間抜けな寝返りでもし、はるかちゃんが骨折とか脱臼とかしたら真剣張り倒す。通信終わり」


 今夜は、添い寝どころかおちおち寝ていられないことだけは自覚できたし、無邪気にキラキラした瞳を向けてくるはるかちゃんは、本当に可愛らしかった。



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