第6話 失礼致します。
20時半少し過ぎ、302号室の呼び鈴を鳴らす。
「鳴らして一拍置いたら、開錠して即入室施錠ね。はるかちゃんもその点わかってるから大丈夫」
5分前、藤宮さんから受けた指示通りカードキーを差し込み開錠した。14歳の女の子、というキーワードにやたら緊張しまくってるんだが大丈夫か俺。
「失礼致します」
ドアを背に一礼し姿勢を戻す。
返答がない。致します、じゃ堅苦しすぎだったか。
こんばんは、はどうだ?
いやその前に名乗りをあげた方がいいか、迷っている足元にふわふわしたワンコが近寄ってきた。犬の種類に詳しくない俺でも、その特徴から小型犬のチワワだとわかった。可愛い。
心の中で小さくガッツポーズを決める。初対面の異性とコミュニケーションを取るには最強じゃないか。
可愛いワンちゃんだね、名前を教えてくれるかな、よしこれでいこう。
白くて細くふわふわしたチワワをそっと抱き上げると、飼い主であり俺と添い寝希望の(俺と、は大きな間違いだと思うんだが)はるかちゃんを探した。
ベットルームと(きゃっ)の続き部屋にも人の姿は見えない。心なしか、小脇に抱えられたチワワわんこも心細そうに見える。
これは、まずい事態なんじゃないだろうか。客人しかも未成年が宿泊予定の部屋にいない=宿泊事故なんじゃないんだろうか。
バスルーム、洗面所を確認、使用した形跡なし。窓、全て施錠されている。ベランダ、ここはベランダがないタイプの部屋だ。
右耳のイヤホンを抑えると、右の尻ポケットのトランシーバーのスイッチを押した。
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