第2章 無知と無視

第5話 担当させていただくことになりました。

 ショートの波多野、筋肉の有野、体力の守野、新人三野衆と呼ばれ無事に研修生として歓迎されホテルイノウエの一員として迎えられた。


「守野くん、ちょっといいかな」

 夕方18時前、タイムカードを押してロッカーへ向かう狭い廊下で、給湯室から出てきた藤宮さんから呼び止められる。仕事の話以外無いとわかっていても何かこう、妙な期待を抱かずにはいられない。


「急でほんと申し訳ないんだけど、今日って夜勤に変更出来るかな。私もそうなんだけど」

 藤宮さんと夜勤、むろん二つ返事で大丈夫ですと、なるだけ感じよく見えるように笑顔で返す。

「ほんと?!助かったありがとう!今日急なご宿泊のお客様なんだけど、添い寝をご希望されてるの」

 へ?


「お名前は加藤はるかさん、14歳の女の子なんだけど、夜は一人じゃ眠れないらしくて」

 14歳の女の子、そして藤宮さんと一緒の夜勤。片手にスイトピー、片手に薔薇のイメージが膨らんで思わずだらしのない顔になりそうになるのを必死にこらえ口を開いた。

「いやあの、俺も一応男っていうか男の端くれですし、ほら最近の女の子は発育がいいって言うか、その、添い寝とかっていろいろと倫理的に問題が…」

 もごもごする俺を藤宮さんが凛とした声でぴしゃりと押さえる。


「守野くん、ホテルイノウエの掲げる第一の看板は何」

「全てのお客様に宇宙一のサービスを、です」

「でしょう。最高のサービスを提供するのに男女の壁なんかないのよ、私たちは全員イノウエの看板を背負ってここにいるんだから」

 いやいやいや、男女の壁とかそういう問題じゃないでしょ、というか22歳の男が14歳の女の子に添い寝とか絵的にというかどう考えてもまずいって。

 と思いつつにやけた思考を止められない。


「お食事とご入浴の終了時間がだいたい20時ごろだから、20時半に入室よろしくね」

「はい、わかりました」


 としか返事のしようがなかった。

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