第4話 なに?!
無機質な面接室を予想していた俺はいい意味で裏切られた。
ここは応接室、それもかなり立派な応接室。
手前のソファーに2人先客が座っている。やたら肩幅の広いマッチョ的な男と、小柄なショートカットの女から立ち上る緊張に俺の背中も硬くなる。
「どうぞかけて」
テーブルの向こうに座る仕立てのよいスーツ姿の男性は、サングラスで瞳は見えないものの首筋や手の甲の感じからすると40歳~50歳の間と言ったとところか。
「それじゃ、応募してくれた理由を順番に聴こうかな、波多野さんどうぞ」
小柄な女がすぼめがちな口を開いた。
「私は幼い頃より、祖父がこちらのホテルを利用させていただいていることをよく聞かされておりまして、ここで働かせていただくことが子供のころからの夢でした」
「ほう。あの波多野さんのお孫さんでしたか、ああ、面影がありますね」
いきなりピンチじゃねえかおい!
「有野さんどうぞ」
「はい、僕はよく筋肉馬鹿と思われがちですが、割と手先が器用な方なのとやはり、両親ともこちらによくお世話になっていたことから応募させていただきました」
「確かに、君は力もありそうだし裏方も出来そうだ」
あーこれはヤバいわ、不利すぎる、筋肉が淀みなく話している間に脳細胞フル回転。
「守野さん、どうぞ」
「えっと自分は就職活動中にこちらのホテルを知りまして、素晴らしい環境の良さと新天地で働きたいという思いできました」
素晴らしいとか新天地とか白々しい上に内容がねえよなあ、オワタ。
名札に刈谷崎とある目の前のスーツがおもむろに口を開いた。
「全力で走れるかね?」
何?!
筋肉が勢い込んで答える。
「100メートルなら8本ぐらいは続けていけると思います」
ショートカットもすかさず答える。
「私は長距離専門でしたが、短距離もそれなりにいけます」
俺か、俺の番か。
「あの、体力にはその、自信があると言うかあります」
刈谷崎さんはそのあともいくつかの質問をした。
「跳躍は得意かね」
「反復横跳びはどう」
「球技は何が出来る」
「木登りの経験は」
「よくわかった、ありがとう、面接を終わります。帰りに受付へ履歴書を提出して帰ってください」
俺は今日初めて知った。ホテルマンというのは陸上競技選手並みの運動能力が求められるということを。
というのは俺だけの大きな勘違いであることが判明するのはもう少し後だ。
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