第2話 行かせていただきます。

 瞼を通り越した明るさに目を覚ました。

 カーテンの隙間から入り込む光がやたら眩しく感じる。

 だる重な体を引きずるように起こし首を回すと、骨が鳴る鈍い音が耳のすぐ下で聞こえた。

 なまってんなー。


 しん、とした家の中、とっくに2人とも出掛けたらしい。

 枕もとの電波時計が無愛想に9時を告げる。

 ベットから2本の足を引き抜くと部屋を出て階段を降りた。


 リビングのテーブルには、食パンとハム、目玉焼きが用意されている。お椀が伏せられているところを見ると、なんかスープもあるらしい。

 もう2月も終盤、焦っても仕方ねえよなと自分に言い聞かせ、冷蔵庫を開け牛乳を取り出すと、半分ほどの残りを一気に直飲み。

 ふう。


 パンをトースタ―に放り込むと、目玉焼きをレンジに突っ込みコンロの火を全開にする。チーンチーンと甲高い電子音が響き、皿をテーブルに並べている間に鍋のふたもしゅんしゅん言い出した。熱々のスープ(今日は玉葱と卵が具らしい)をなみなみとお椀にそそぐとテーブルについた。


「いただきます」

 コトン。と窓際で返事をするようにタロウが動いた。日向ぼっこしていた石から降りたらしい。

 最初の一口、熱々のスープを慎重に口へ運ぶ。潤ったところできつね色に焼けたトーストをサクッと一口、次に半熟の目玉焼きに塩コショウを振ると黄身をつぶさないようトーストにのせてガブリつく。添えられているサラダは、俺にとっては草食動物の食い物にしか見ないが、残すと姉貴がうるさいから残さず食べる。

 最後のスープを胃に流し込み、ごちそうさん。


 とそこで、聞きなれた電子音が聞こえてきた。

 電話だ、メールじゃない電話だ、俺のスマホどこ置いたっけ?


 階段を駆け上がりベットのふとんをめくる、無い、枕を放り投げ掛け布団と毛布を乱暴にむしり取る、滑り落ちたスマホをキャッチすると見慣れない番号をちら見してからボタンを押した。


「はい、はいそうです。え、あ、ああ、はいそうです。今日ですか、大丈夫です、はいわかりました、午後2時に行きます、いえ行かせていただきます。はい、よろしくお願いします」


 とても大切なものを触るようにそっと通話終了ボタンを押すと、床に落ちた掛け布団と毛布をぎゅっと拾い抱きしながらよーしよしと自分でもよくわからない掛け声をかける。よし面接準備だ!


 ……とまてよ、行きますはいいがどこの会社だ?昨日適当にエントリーしすぎてどこに応募したかもよく覚えていない、それにエントリー後大抵は第〇回会社説明会の連絡メールから始まることが多く、直電はこれが初めてだ。

 着信番号検索で、名前と住所を確認する。

「緑ヶ丘、ホテルイノウエ……」

 ホテル?!マジか、俺はホテルマンに応募してたのかよ、いやーこれは受かる自信ゼロだなー、取り柄が体力あります、じゃしゃーねえよなー。

 顔を寄せたアクセス案内にある画像には、古い洋館のような重厚なたたずまいの建物が写されている。

 ますます自信という二文字が縮んだところでどうせダメもとだと気分を取り直し時計を見る。とりあえずヒゲだな、肩にバスタオルをかけるとバスルームへ向かった。








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