第6章 学園生活の始まり⑩
「まだまだぁ!」
炎条君が両の拳を胸の前でぶつけると、火打石のような効果を発揮して彼の炎の勢いがさらに増す。
その後息を吸いながら大きく仰け反った。
見るからに攻撃の予兆だ。
「えええ……」
間髪入れずに一切の容赦なく来る大技に、溜息を漏らしながらも私は遠くへ逃げようとした。
「《
極端にくの字に前屈した態勢で放ったその攻撃は、コロシアムの地面を這うように私に迫ってきていた。
だけど、思っていたより簡単に避けることが出来た。
まず、ブレスに高さがない。
せいぜい足首から下は焦げるだろうけど、それより上は火が届いていないほどに低位置を狙っている。
足元をすくってその場で跳ばせようという魂胆なのか。私はそこまで馬鹿じゃないけど。
次に、ブレスに幅がない。
私一人の肩幅より少し広い範囲に、複雑な形で飛んでくるのではなく真っ直ぐに、一切の迷いなく来ていた。
これはもうブレスというよりは影、シャドーって言われた方がしっくりくる。
なので私は迫ってくるタイミングを見計らって横にひょいと飛び退けた。
そして彼一番の失敗は、避けられた時の対策やそれを見越した追撃が一切ないこと。
簡単に避けられたことにそんなに驚いているのか、呆然とした顔の彼が前屈状態から戻った時には、私の右ストレートが彼の頬を抉っていた。
「ぶはあああぁぁぁっっっ‼」
身体がねじれながら吹っ飛んだ彼の様を見て、思わず私は今殴った自分の右拳を二度見する。
思っていたよりは筋力あったじゃない! あのデブがやたらと太ってただけみたいね!
思いもよらぬ行動結果に嬉しくなってそのまま右手でガッツポーズをしたタイミングで、炎条君の身体はコロシアムの地面に転がった。
「そこまで!」
はりまる先生が右手を払って、一番最初の模擬戦闘は終了した。
チェンジ・ザ・ワールド 風魔 疾風 @fuuma_hayate_
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