短編集

武蔵丸

第1話 時計

 「家族」という言葉を聞いた時に、あなたは何を想像しますか?


 普通の人なら、兄弟や姉妹、そして真っ先に両親なんて言葉を連想するのだと思います。


 けれど私は違う。


 私がいの一番に思い浮かべるのは、背の高い時計だった。

 

 掛け時計でも腕時計でもない、置時計。


 有名な歌にも出てくる大きな古時計を想像してくれれば、わかりやすいのかもしれない。

 

 別に体の中央に振り子がついているわけでもなく、ただの大きな時計。無駄に大きな時計。けれどとても、背の高い時計。


 時計の足元から見上げる光景は、なんだかとても迫力があって、幼い日の私は、稚拙な恐怖心から、あまりその時計に近づかないようにしていた。


 けれど時が経つにつれ、当然私の身長も伸び始めるわけで、それと同時に、時計が放つオーラのようなものは、日毎に感じなくなっていた。


 さらに時が経ち、とうとう私は、時計の羅針盤に、あともう少しで視線が届くところまで、成長を遂げる。


 そうなってしまえば、恐怖心を覚えるどころか、私の中の目標が、「時計の時間をみてやろう」なんてものに変わっているわけで、同時にそれが、私の最優先事項となった。


 けれどどうして、なかなか身長が伸びない。


 第二次性徴が人の限界と知ったのは、そんな悩みが、悩みではなくなっていた時期だった。


 高校二年の冬先のことだ。


 ふと時計のことを思い出し私は、突発的な発想のもと、適度な足置き場を組み立て、時計の羅針盤を見たのだった。


 時間は止まっていた。まるで私見たい。

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短編集 武蔵丸 @saymay1121

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