RESULT
NEW GAME:SIDE NPC
気の遠くなる様な歴史を遡る。
まだ『神』と呼ばれる、大型の環境維持装置が無かった頃、宇宙を旅した大いなる先人たちがこの惑星にたどり着き、生命の種をばらまき、文明を築き上げた。
それらの痕跡は『魔具』と呼ばれるオーパーツ(その年代に元来存在するはずのない技術を用いた物)や、『竜』を代表とする強力な生物兵器、超能力研究の末に編み出された、森羅万象を司り世界を一変させる禁断の『魔法』など、様々な形でこの惑星に残され、それらはこの世界に革命と、一歩間違えれば破滅を呼びかねない争いをもたらした。
そして、知恵と恐怖心を持った人々がそれらの技術や知識を封印する事で、この世界はつかの間の平穏を取り戻す事に成功した……かのように思えた。
「テツ!」
この世界は神秘と謎に満ちている。ある者は好奇心で、ある者は一攫千金を夢見てそれらを追う。雲を掴むような確率に、時には命をかける連中を、人は『
「テツってば! 待ってよ!」
チェイミーは自身の愛用する古代の乗り物『鉄輪』を引きずりながら、砂漠を歩いていた。先頭の男は振り向きこそしないが、彼女と距離を離さないように、時折歩みを緩める。
「まったく……こんな所にまで持ってくる事は無いだろ? それ大き過ぎるんだよ」
「うるさいわね、宿に置いたら盗まれるわよ」
「じゃあ俺と二人乗り……」
「お断り」
チェイミーは、後ろから言い寄って来るヤックの顔を、片手でぐいぐいと押しやる。
「第一、私の後ろはテツって決まってるの」
「俺!? おいおい、お前のデカい尻じゃ狭くて座れねえよ」
「何だって!? アタシそんなに……」
三人の会話を振動が遮る。目の前の砂が盛り上がると、中から鉄の体を持つ二足歩行の巨人が現れた。
「『
「さ、姫様は後ろへ。争いごとは我々の役目です」
「バカ言わないで、あんたの剣じゃ近づく前に死ぬよ」
遺跡を守るべく立ちふさがる者と、それを打ち破り財宝を手にしようとする者。双方が対峙した時、撤退の許されない戦いとなる。
テツとチェイミーが銃を構え、ヤックは剣を抜く。そして三人は互いに目線を合わせると、打ち合わせ通り一斉に飛び掛かった。
◆チェイミー・チェイス(鉄騎チェイミー)
◆テツ・カドクラ(不死身のテツ)
コンビで活動、腕利きのアドベンチャーとして名を知られる。後にヤックを加えて三人組となり、世界中の遺跡を次々と攻略する。
◆ヤック・デボルタ(半裸のヤック)
元ファスト王国聖騎士。国王に魔具を献上しに現れたチェイミーに一目惚れし、自身も冒険家となり、彼女の後を追う。
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ナムの村外れ、貴族タイドの大屋敷。ここに一組の夫婦が誕生しようとしていた。
「ライト・ウェー、そなたは妻を愛し、生涯護りぬく事を誓いますか?」
「誓います」
神父の問い掛けに、男は力強く答えた。
「レイン・メール、そなたは夫を愛し、生涯支える事を誓いますか?」
「誓います」
神父の問い掛けに、女は迷いなく答えた。
二人が誓い合い、口付けを交わすと、辺りは暖かい拍手と歓声に包まれる。その群衆の中に屋敷の主である青年、タイドの姿があった。新郎新婦はタイドに手を振ると、彼は少し寂しそうな顔で手を振り返した。
式を終え、豪勢に酒や料理が振る舞われる頃、ライトとレインはタイドを探すが、彼の姿はどこにもなかった。
そして彼の部屋で、二人は手紙を見つける。その文面に二人は肩を震わせた。
「ライト……これって……」
「バカだよ、いつも一緒って言っただろうに……!」
同時刻。タイドは式を抜け出し、とうに屋敷からかけ離れた森にいた。傍には最近知り合った『金王』と名乗る商人の姿があった。
「いいのか? まるまる家を空けちまって。お前さんの『
「使用人には言い付けてある。二人は何不自由なく過ごせるはず。それに僕の起源は家じゃない、あの二人といた時間だよ」
「恋より友情を取るか……よくもまあ、親友のためにそこまでやれるね。帰ってきて誰もいなかったら? 人間は思いのほか薄情だぞ?」
「別に構わないよ。二人が幸せならね、それを見届けるためにも……」
タイドは振り返り、自分の屋敷を見た。
「僕は必ず生きて帰る」
そう言い切るタイドに迷いは見られない。そんな彼の目に、金王は確かな未来を読み取る。
「……お前さん、この世界をたった一人で生き抜き、戦いぬく覚悟があるかね?」
「生きる為なら何だってやる。あなたは、その戦う術を知っているとでも?」
「ああ、望むなら全てを教えてやろう。金と度胸で渡り合う、剣でも魔法でもない世界を」
◆タイド・メッセ
不治の病を克服すべく『機械の体』を手に入れるため、金王の案内でオルエルド帝国に旅立つ。そこで「タイド・メッセ」という人物の痕跡は途切れる。
◆金王
流浪の旅商人。タイドに商才を見出だし、自身の持てる知識や技術を伝授、そして財産を全て譲った後、消息不明になる。
それから何年にも渡り、歴史上では「金王」と名乗る商人が度々顔を出す事になる。ただし後世の歴史家をもってしても、彼の出自や末路は謎とされた。
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争いが起き、より強大な力に頼った時、誰かがその力に手を染めた。
「古代兵器」という認識でしかなかったそれは、やがて人々の思惑を超えた、大いなる脅威へと進化する。
「さて、続きはまた明日」
ファスト国はずれのバルボア山脈、山奥に位置するツアルの村にて。ドーラが話を区切ると、子供たちは一斉に騒ぎだした。
「えー? これからなのに!」
「『ゆうしゃ』はー? みんなで『じゃしん』をたおすんでしょ!?」
「そうそう。明日はその戦いがどうなったかお話するからね。さあ、今日はもう帰りなさい」
不満そうな子供たちを優しく諭すと、ドーラは一息吐く。ふと見上げると、ランプの火の灯りが、男の影を照らしだしていた。
「お疲れの様で、女王様」
「アインか。その呼び方、何度言っても止めないね……」
「変えませんよ。あなたはセカン国の女王なのですから」
アインは腰を下ろし、ドーラよりも低い位置に座った。
「……変わりましたね。邪神の話なんて、私の代では禁句でしたよ」
「邪神は神話でも昔話でもない、今も眠り続ける災厄だ。いずれ子供たちも邪神と向き合わなければならない」
「あの話の続き、人は魔族と連携が取れず、初戦では大敗を喫してしまう……刺激が強過ぎるんじゃないですか?」
「真実は残酷だよ。あの子たちはいずれ知らなければならない。『勇者』と呼ばれる存在が、完全無欠の戦士ではない事を」
ドーラは若かりし日々を思い浮べる。腕利きの傭兵、誇り高い王国騎士団、活気溢れる冒険者……『勇者』と呼ばれた猛者たちが集い、そして邪神の前に散っていく。
何が一番悲しかったかといえば、彼らの死が邪神封印に結び付かなかった事だ。結局『浄化の剣』という、神の気まぐれにも似た偶発的な助力で、人々はこの脅威を退ける事になる。
結果だけで見れば勇者たちは無駄死にだろう。だが、彼らが神という圧倒的な力に臆せず立ち向かった意志と、その戦いの記録は決して忘れてはならない。いずれ自分たちの力で神に完全に打ち勝つ日が来るまで、彼女はこの敗北を後世に伝え続ける事を誓った。
「……『浄化の剣』がある限り、邪神はいずれ復活する。私は怖いです。たまに逃げ出したくなりますよ」
「私もさ。だけど私たちが逃げたら、誰が邪神を止めるんだい?」
ドーラはアインを睨みつけた。
「戦うんだよ。最後まで、逃げずに、私たちのできる精一杯のやり方で」
◆ドーラ・ブラン
邪神と聖剣の話を伝え、子供たちに未来を託した後、天寿を全うする。死に顔は安らかなものであったが、その懐には王国の宝剣が力強く握られていた。
◆アイン・ハンダ
ドーラが伝えた情報を記録し、聖剣の守り人として村に残る。やがて来る邪神復活と、それを封印出来る勇者を待つ為に。
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「おばさん! メラ兄ちゃん来てたって本当?」
部屋に駆け込むなり、いきなり浴びせられた『おばさん』という単語にセラは一瞬表情を強張らせたが、すぐに穏やかな笑顔を取り繕う。
「……ええ、またどこか旅に出るみたいね。それとね、私はまだおばさんじゃ……」
「ああもう、早く知らせてよ! おばさん気がきかないんだから!」
慌てて城の外へ出ようとするソニアを見て、セラは服の襟に杖を引っ掛けた。
「ちょっと、おばさん!」
「おば……じゃなくてね。ダメよ。あなたまだ若過ぎるじゃない」
「はーなーしーてーよ! 今度こそ付いていくんだから!」
「あなたね、押し掛け女房も時と場合によりけりよ。魔法ちっとも覚えないじゃない」
「またそうやって子供扱いして! おばさんだからって!」
「おば……さっきから一々……オバアアアア!」
セラの堪忍袋の緒が切れる。その隙にソニアは捕縛を逃れると、杖を取り出し臨戦態勢に入る。
「あら、歳を取ったら人間丸くなるって聞いたけど?」
「小娘がぁ! 人が下手に出れば調子に乗りやが……」
言い掛けた所で、セラはソニアの勝ち誇った様な笑みに気付いた。突然石板に囲まれたかと思うと、地面の石板が次々と外れ、セラを閉じ込めていく。
「やったやった! 魔法使いの心得その一、『魔法は決して発動を悟られない事』だいっ、せいっ、こうっ!」
「ふーん、じゃあこういうのはどうかしら」
石壁の中からセラの腕が突き出されると、その亀裂で石壁は一瞬にして破壊された。
「ひっ!?」
間髪入れず、セラが突き出した手で合図を送ると、石板は一斉にソニアを目がけて飛ぶ。僅か数秒にして、構図がそっくりそのまま入れ替わっていた。
「魔法使いの心得その八、『魔法使いたる者、ありとあらゆる事態を想像せよ』不意討ち程度で慌てると思った?」
「魔法使いの心得その二、『魔法使いは常に冷静であれ』はどうしたの! あんなに怒ってたじゃん!」
「甘いわね。怒は人をより強くする。私もそのクチなのよ」
そう言って、セラは声高らかに笑いだす。ソニアが彼女を乗り越える日はまだ遠いようだ。
◆セラ・ランドール
魔法都市『パステル』を追放された後も、独自に『人形術』を追究し続ける。人を超えた「完璧な人形」を目指して。
◆ソニア・デュアル
孤児として街をさ迷っていた所をセラに保護され、セラの下を訪れていたメラに出会い一目惚れする。その後修行により強大な魔力を開花。愛する人を追って自身も長い旅に出る。
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「巨人征伐を中止する」
ファスト国王の言葉に、ドイは目を丸くする。巨人は『青の森』に巣くう強大な魔物で、直接的な被害は無かったにせよ、その不穏な存在感は近隣に位置するファスト王国にとって頭痛の種であった。
「あんな怪物が目と鼻の先にいるのは厄介だが、駆逐するのも骨が折れる。よって……」
国王が合図をすると、扉が開かれる。そこから巨人が窮屈そうに入ってきた。
「組む事にした」
剣を抜くドイを見て、巨人は棍棒を構える。
「まだ公にはしないが、彼らには戦力を提供してもらう代わりに、住居を確保する事を約束した」
「国民……そして我々にそれを納得しろと言うのですか?」
「平和的解決策だ。互いにやりあえば被害は計り知れない。なあ?」
「私たちは静かに暮らしたいだけだ」
巨人の言葉に、ドイは衝撃を受けた。
「見た目で誤解されやすいが、彼らは我々と同じ知性を持ち合わせている。共存は可能だ」
「しかし、我が国は彼らを住まわせる程広くはありません。当然食料も」
「だから領土を広げる」
国王の目を見る。いつも通りの不敵な笑みを浮かべている。ドイはその顔を見慣れていた。国王は平然を装いながら、いつもとんでもない事を切りだすのだ。
「……という事だ。和解が成立した以上、巨人討伐は無しだ」
その日の夜、ドイは宿舎へといた。巨人討伐に備え、特別に雇われた『剣王ズパー』に、戦いが終わった事を知らせる。
「もちろん、違約金は払う。本来払うべきだった額より遥かに少ないが……」
「いらないよ。戦ってもいないのに受け取る理由がない。それよりその金はとっておけ、次の戦いに必要になる」
ドイは目を見開いた。「和解した」と伝えて、「戦い」という言葉が返ってきたからだ。
「近いうちに、あなたの国はどこかへ戦争を仕掛けるだろう。巨人という強力な種族を従えてな」
「その時、力を貸してくれないのか?」
「契約の時に言ったはずだ。私は『巨人を倒す』とな」
◆ファスト六世
巨人を懐柔した後、軍備拡張と領土拡大を試みる。国力は増加したものの、巨人と国民の間に溝が出来つつある。
◆ドイ・ヒース
国王の強気な政治に躊躇しつつも、聖騎士団団長として支え続ける。その献身的な姿から国民からの人望も厚く、ファスト王国を影で支える功労者とされた。
◆ズパー・ザン
『
ある時期より戦場から姿を消すと同時に、自身と同じく巨剣を扱う剣士に決闘を挑んだという噂が流れる。
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とある古城、かつて人間の王が君臨したその部屋には、多くの魔族が整列していた。彼らは玉座に座る一人の人間に頭を垂れている。
そこに一人の
「魔王様、また冒険者どもが攻めてきました」
「……帰ってもらえ。やり方は任せる」
「はっ! 仰せのままに!」
斧を持ち意気揚々と部屋を出る牛男を尻目に、男はため息を吐く。
(どうしてこうなったのやら)
きっかけは些細な事だった。ふと巻き込まれた人間と魔族の戦闘。そこで男は気まぐれに魔族を手助けした。深い理由はない。あえて言えば彼の人間と魔族のハーフという出自と、幼少時より差別の目に耐え抜いてきた乾いた心が秤をかけられ、その場に居合わせた人間を敵と判断したからだ。
人と魔族は相成れない生物。かつて戦争で負けた魔族は人間から見て蹂躙すべき敗者であり、そんな魔族から見た人間は理不尽な支配者であった。その両者の下に生まれた自分が生き延びるためには、人間の力と魔族の力を併せて自衛する他なかった。幸いにも父は一国の騎士団の団長を務めるほどの剣の達人であったし、母は膨大な魔力を持つ淫魔であった。血脈に恵まれ、また資質にも恵まれた男は剣も魔法も扱える万能の戦士と成長する。
しかし、突出した才能は良くも悪くも注目の的である。自衛のための戦いが人知れず伝わり、男の力は人間にも魔族にも広まり、そして人間も魔族も手にかける事から無差別の殺人者としても恐れられた。
男もそう自覚し、あてもない流浪の旅を続けるつもりだった。
「あなたが噂に聞く『魔王』様……お目にかかれて光栄です!」
「はあ?」
人間と魔族が少し違ったのは、人間は力を持つ同族を畏怖し排除しようとするのに対し、魔族は力を持つ同族を取り込もうとする強かさがあった事だろうか。魔族の復権、その象徴となるべく絶対的な強さを追い求めていた。そこに人間からも魔族からも恐れられる男はまだどこの勢力にも属さない、敵にも味方にもなりうる存在だ。
「大体なんだその『魔王』というのは。そんな恥ずかしい名乗りをした覚えはない」
「人間の半身でありながら、魔族をも凌駕するほどの魔力を持つ男……魔力は魔族の力の象徴でもあります。ゆえに魔族を率いる資格を持つ者……それが『王』の由来です」
「勝手に祭り上げるな。俺は王じゃない」
「しかし……あなたには王となるべき男。そうでなくては困るのです」
「押しが強いな……」
男の困惑は当然だが、それ以上に自分が頼られる事に少なからず男は混乱した。主義も主張も持たず、有り余る強さだけを身に付けてきた男が、その力の使い所を求められている。王になる気はないが、王になれと言われて断る理由もない。また、人間と魔族に憎まれつつも旅をするのも限界が見えてきた。考えれば考えるほど男は魔族に流されていると自覚していた。
「力と才能はあるべき所へとたどり着く。それが戦士の運命である」自分の選ぶ道はいつか定まるであろうという意の、父の遺した言葉を思い浮かべながら男は『魔王』となった。そして今は魔族の立場に身を置きつつ、人間と抗戦する日々を過ごしている。その過程で使命感を覚えもしたが、いつだって思い出すのは物事のきっかけである。
(何故だろう、もっと適任者がいた気がする。自分ではない誰かが……)
前世と異なる記憶を持ったかつての『帝王』は、もうこの世にはいないはずの『魔王』を演じる事で、世界を革新していく。
◆バロス・テイラー
『魔王』として魔族を率い、攻撃に出向いた人間から恐れられる。もっとも、自身から人間に対し戦いを起こすような事はなく、独立国家を立ち上げたのちも一部王国を除いて良好な関係を築き、現在では魔族と人間の敵対関係は薄れつつある。
■■■■■□□□□□
「これが塔……高い! 神が作る物に際限は無いのですね」
「ああ。だけど神とは結局、俺達と何ら変わりの無い生物だった」
かつて『魔王』と呼ばれた青年は、耳の尖った美女を優しく抱き寄せると、建設途中のタワーを見上げた。
「こんなに高く建てて、神にでもなるつもりなのだろうか。愚かな……」
「あら、人間は好奇心と向上心の塊よ。私、この塔見てると元気が出るわ。いつか天まで届くんじゃないかって」
「私たちの祖先……宇宙を旅したという古代人の様にか?」
「そう! いつか私たちの世界に、彼らが遊びに来るかもしれないわね」
「彼らか……」
青年は振り返った。溢れかえる人の波が青年の視界を埋める。この広い世界のどこかに、共に女神へ立ち向かった勇者たちがいるのだろうか。
しかし、その戦いの記憶は失われてしまった。この平和な世界にかつて滅び去ろうとしていた光景を重ねて、青年は寂しそうに笑った。
「また会える日も来るのだろうか」
二人はあてもなくさ迷い続ける。ゲームに帰らなかった二人に残されたのは、自分たちが存在した偽りの世界の記憶と、その世界で振るっていた力の絞りカスだけ。戸籍も、地位も、財産も無い。そして……。
「……そいつはエルフ? お前らも残留組か?」
不意に声をかけられ、二人は足を止めた。そこにいた男は、おそらくゴミ捨て場から漁って来たであろう、擦り切れたジーンズやボロボロのジャンパーに身を包んでいる。
「身なりは汚いがその体格は隠せないな。元戦士、あるいは傭兵か?」
「わかっているなら話は早い。力が有り余っているのだろう? 俺と組まないか?」
「組んでどうなる?」
「この国を乗っ取る」
男の発言に、ワロスは思わず失笑する。
「今、笑ったか?」
「まったく、ゲームのやり過ぎじゃないのか? ちょっと力が強いから、ちょっと魔法が使えるから。そんな理由で暴れるくらいなら……」
ワロスはコートを脱ぎ捨てると、光る両腕を構えた。
「俺が目を覚まさせてやる」
◆ワロス・テイラー
帰還が間に合わず、ゲームの初期化を免れる。同時に生身の肉体へ転生し、かつての膨大な魔力は、僅かばかりの超能力という形で残された。
愛するイターシャを守るため、また、彼女の愛するこの地を守るため、新たな戦いに巻き込まれていく。
◆イターシャ
『神々の世界』に取り残されるも、ワロスと共に新たな人生を歩み始める。
愛する人の傍では、彼女に絶望は無い。果てしなく続くこの世界が、輝いて見えていた。
(……同族か、結構残っているものだな)
見た目こそ浮浪者だが、手にした棒を豪快に振り回す男と、それを人間離れした跳躍力で軽々しく避ける青年を、男は建物の陰からそっと覗いた。
(まあ、残ってしまったはぐれ者同士せいぜい頑張ろうじゃないか)
男は胴着から何枚か札を取り出すと、そのまま闇夜に向かって飛翔した。
◆テンドウ
キオとの戦いで壁の中に埋め込まれた結果、実体化を免れ自力で脱出に成功。不死に近い生命力と怪物じみた力を持つにいたった彼がいかなる道を進むのか、彼自身もまだ見定めていない。
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