29章 『航海』 Over Blue

 あの青い青い、無限の領域を越えろ。我らを囲い閉じ込める、青い檻を突き抜けろ。


 海が生命の母と言うならば、子はそれを乗り越えなければならない。知恵と勇気を振り絞り、青の世界を切り開くのだ。


 母なる海に感謝を捧げよ。


 母なる海に畏怖を覚えよ。


 母なる海に希望を掛けよ。


 青の温もりと冷たさを胸に抱き、たった一つの命を握り締め、いざ雄大なる大海原へ。


■■■■■□□□□□


「鎖国した島国かぁー、どっかで聞いた話じゃあるまいし……」


 女神の話を聞き終えると、お手上げと言わんばかりにベルが両手と欠伸を上げた。


「船が必要じゃが……何にせよ鎖国地域となれば、簡単には近付かせてくれんじゃろうな」

「ぼくが皆を乗せて飛ぶよ!」

「キオ、アンタはマップ移動中に飛べないのを忘れたのかい」

「ちぇっ……」


 キオの竜形態はあくまで戦闘用の姿であり、そしてキオが子供である以上、その能力も完全なものではない。


 一部地域やイベントで飛行が許される場合もあるが、原則としてこの世界の空を自由に飛び回るのは、まだ許されていなかった。


「まぁ西洋ファンタジーらしく、船を使えって事だろ。話も佳境だしな」

「お約束というか縛りというか、たまにここがゲームだって事を思い出すな」

「文句言うなよ。オヤジもそういうベタ目当てでこのゲーム買ったんだろ?」

「まあな」


 先ほど打ち解けた事もあってか、メラとベルは違和感なく話し合っていた。互いにゲーム好きとあり、会話も自然と弾む様だ。


「船! でもじいちゃん、船なんてどこにあるの?」

「とりあえず、船と言ったらバハラじゃろ。他にあるか?」


 商業都市バハラ、今まで通ってきた土地で、唯一港がある場所だ。短絡的ではあるが、ゴウトには他に心覚えがなかった。


「またバハラか……ゲームでもこんなに寄るもんかね」

「案外狭い世界だよなー。道に迷わなくていいけどさ」

「文句言ってないで、近いんじゃから早く行くぞ」


 ゴウトはそう言うと、一人黙々と歩き始めた。


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 ゲームの世界はゲームらしく、移動の負担はさほどない。しばし歩いている間にも太陽は登り、しばらくしてまた沈んでいく。きっとこの世界の時間は自分たちに合わせられているのだろう。そんな時間の流れの早さもまた、主人公たちに与えられた『特権』である事をゴウトたちは薄々感じていた。


 そして道が分かりやすいのか、どこにいても目立つ程に土地が広いのか、『オゼ大草原』を後にしたゴウト一行はおよそ三日間、体感時間にして三時間程度でバハラに戻る事に成功する。そこまでは順調であったが……。


「オルエルド? 冗談じゃねえ、近付こうもんなら殺されるよ」

「勘弁してくれ。まだ海に出てくる魔物の方が可愛いもんさ」


 港では予想以上に、オルエルド帝国の悪名は響き渡っていた。噂では他国を警戒するあまり島は半ば要塞化され、不用意に近付こうものなら砲弾の雨を浴びせられるという。


「まるっきり昔の日本だな。話を聞くかぎり、相当ピリピリしてんぞ」

「黒船でも用意して、開国を迫ってみるかね?」


 ゴウトの冗談にベルは苦笑いを浮かべるものの、結局は解決法が見当たらない。一同が肩を落としたその時であった。


「やはり、ここに来たか」


 声に振り向くと、そこには何人かの騎士を引きつれた凛々しい顔立ちの男、ファスト王国の聖騎士団団長、ドイが立っていた。


「……この人!」


 顔を見るなり反射的にキオが身構える。洞窟で自分を執拗に攻撃してきた男、あの時の鮮烈な記憶がキオを突き動かしていた。


「構えるな、私は敵じゃない」

「信じるもんか!」

「落ち着けよ」


 いきり立つキオを抑えつつ、メラが前に出た。


「メラか、久しぶりだな」

「オレたちに何の用だ? ヤックと違って、お前は国王の命令で来てるんだろ?」

「そうだ。最後の聖剣を追って、お前たちや魔王がオルエルドに向かうと聞いてな」

「なるほど。つまり国王も聖剣を狙っているんだな?」

「……どうだろうな」


 すっかり顔馴染みであるヤックとは違い、義務的で冷たい声が返ってきた。


「まあまあ、お前さんみたいな軍人じゃ話も進まねえよ」


 ドイの様子を見兼ねて、長銃を持った商人風の男が割って入った。逆立つ髪の毛に鋭く尖った顎、ゴウトはこの男に見覚えがあった。


「お前さん、確か闘技場にいた……」

「『金王きんおう』で通っている。今回は商売も兼ねて、交渉役を買って出た」

「交渉?」

「ああ、連中とは商売上付き合いがある。そこでファスト国王からこいつらを連れていくよう、直々に依頼されたのさ」


 メラが眉をひそめながら、ドイに話し掛ける。


「よくあの王様が他人に頭を下げるような事をしたな」

「国の一大事には意地を張らない。それに、オルエルドとは良い関係を築き上げたいとのお考えだ」

「良い関係ねえ……言い方がまたやらしいわあ……」


 メラの睨み付けから目を逸らすと、ドイはゴウトと面を向かった。


「お前たちも聖剣を集めているのだろう? 問題無ければ一緒に行かないか」

「問題ある! わっぷ……」


 いきり立つキオを抱き留めながら、ゴウトが応対する。


「願ってもない話じゃが……何が目当てだ?」

「そう構えるな。ヤックほど面識が無いだけで、私に敵対心は無い」

「自分で言うかね、ほんと無機質な……」


 その時、肩をベルが叩いた。


「面白くないだろうが、ここは話に乗ろうぜ」

「じゃが……」

「他に手段があるか? 折角起きたイベントだぜ」

「ううむ……仕方あるまい」


 抱きかかえたキオをそのままベルへと流すと、ゴウトはドイと向き合った。


「分かった。目的地は一緒じゃ、世話になる」

「承知した。私は先に船で待っている、準備が出来たら彼に声をかけてくれ」


 そう言って、ドイは一人船に向かって歩きだす。金王だけを残し、部下の騎士たちもドイの後に続いた。


「……行こうぜ」


 ベルがすぐさま後を追おうと、金王を無視して通り過ぎようとする。しかし体が突如硬直したかと思うと、連鎖する様に金王が語り掛けてきた。


「準備は出来たか?」


 体がまったく動かない。ベルは溜め息を吐くと、呆れた様に呟く。


「『はい』」

「じゃあ付いてきな」


 そしてベルの体が自由になると、一同は船に向かって歩き始める。


「……クソゲーが……」


 ベルは一人、誰にも聞こえない程の小声で呟いた。


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 それぞれの思惑が交差し、互いに感情を胸に秘めたまま船は行く。ファスト国王の忠実な部下であるドイ、商人でありながら底知れぬ力で闘技場の覇者となった金王、そして『勇者』と口々に呼ばれ続けるゴウト、人種も経歴も選ばない仲間たちが集う。


 彼らに共通点は無く、そしてまた仲間意識も無い。ただ目的地が同じで、たまたま居合わせただけに過ぎない。


 数奇な巡り合わせの下に、向かうは未知の領域「オルエルド帝国」。そこに待ち受けている運命を彼らはまだ知らない。


「デオ! 久しぶり!」


 甲板で退屈そうにさ迷うキオは、見慣れた賢竜けんりゅうを前に声を上げた。


「キオさん……? まさか!」

「あ、いけない!」


 キオは慌てて竜に変身すると、賢竜をがっしりと抱き締めた。巨体同士の衝突に、船は一段と揺れる。


「あの坊やは竜人だったか……デオ! あんまりはしゃぐなよ!」


 船に揺られつつ、更に巨大な竜を目にしてたじろぐ船員を尻目に、金王は顎を触りながら平然と眺めている。そんな彼にゴウトは声をかけた。


「あの竜はお前さんの連れかの?」

「おう。空も飛べて言葉も話す。ああ見えて腕も立つしな、優秀な助手だよ」

「ふむ」


 言いながら、ゴウトは何となく金王を見た。闘技場で見かけて以来、どこかしら気になる存在である。


「ん? 俺の体に何か付いてるか?」

「いや、ただあの時、どうして闘技場に来たのかなと……失礼だがそういう風には……」

「確かに柄じゃあなかった。ただあれも商売でな、悪いが全力でやらせてもらった。もっとも……」


 金王は不敵な笑みを浮かべながら、ゴウトを睨んだ。


「あんたの欠場、あればかりは知らないがな」

「幽霊にさらわれたと言ったら信じるかね?」

「本当なら、俺の運も捨てたもんじゃないな。ククク……」


 口の端を上げて金王は静かに笑う。それをまた遠目でメラとベルが見ていた。


「あの男そんなにヤベーのか?」

「俺はカジノの借金の肩代わりに、不意打ちをやらされたぜ。元サラリーマンから言わせりゃ胆力が違うよ。嫌とは言わせない何かを持ってやがる」


 メラは金王を見た。確かにその男は職場キャバクラで見るような、半端な金持ちやヤクザ者とは一線を越えた、異様な威圧感を放っていた。


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 船旅はどんな距離でも時間がかかる。揺れる体と代わり映えのない景色が、更に時間の感覚を麻痺させる。


 そんな退屈に思える時間でも、遊ぶ事だけが許された子供には、至福の様な一時であった。


「ねえ、あの商人さんってどんな人?」


 キオとデオの話は尽きる事が無かった。竜である以上、デオは船室に入る事が出来ない。だからキオは出来るだけ甲板に出向いて、一秒でも長く友人と語らう事を選んだ。


きんさんの事ですか? 見かけはぶっきらぼうだけど、意外と気さくな所もあるし、良い人ですよ」

「へえー」

「それよりキオさん、人って……どんな感じですか? 私も竜人って初めて見るんですよ」

「人かぁ……何て言えば良いんだろ……竜と比べて小回りは効くよね」

「なるほど」


 一方、船室ではドイとメラが二人きりでいた。


「……こんな所に呼び出して何の用? もしかして愛の告白?」


 そう言ってニヤニヤと笑うメラを、ドイは真顔で流した。表情豊かで口数の多いヤックと違い、任務に忠実かつ無駄口を叩かないドイは、騎士団にいた頃からメラにとって不可解な人物であった。


「私はずっと城にいたから外の事は知らない。そして団長とはいえ、あまり個人へ踏みいった干渉もしないつもりだ」

「へーへー、お堅いことで。ストレス溜め過ぎてハゲるなよ?」


 メラの軽口は今に始まった事じゃない。彼女が羅列する聞き慣れない語句も、おそらくは無意味な、あるいは理解出来ないものだと判断し、ドイは自分の言葉を続ける。


「……それでも一つだけ、どうしても理解出来ない事がある。そいつを教えてくれ」

「……あん?」

「本当のメラはどこへ行った?」


 あまりに直球の質問に、メラは思わず動きを止めた。しかも口振りや迷いの無い口調からして、明らかに本当のメラを知っている。


「……そいつを知るのも命令か?」

「いや、私情だ」

「じゃあ信じるか? オレはその実他人で、本人はとっくにいないって」

「だろうな。本物は男性で……どうあっても私の前になんて姿を見せないからな」

「どういう意味だ……!?」


 メラの問い掛けは、突如船体を揺らす大きな衝撃によってかき消された。


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「魔物だ!」


 一人の船員が叫び回ると、それに呼応して他の船員たちが次々と弓や手斧を持って船上へ上がる。メラとドイも急いで駆け付けると、そこは既に戦闘区域と化していた。


「半魚人に翼人……厄介だな」


 ドイが剣を引きながら呟く。半魚人は船員たちを海に引きずり込み、羽を生やした人型の魔物も、船員を足で鷲掴みにすると海へ放り投げていく。そのため大半の船員が戦闘を中断し、救助へと出向いていた。


「誰かが殺されるよりも、ああやって目の前で仲間が窮地に陥ると、つい助けようと動いてしまう……作戦を指揮した奴、相当腐ってやがるな」

「だが戦い慣れてはいる。面倒だぞ」


 ドイが目をやると、一体の竜を翼人が取り囲んでいた。見れば頭上を飛び回り、竜は離陸出来ないでいる。


「キオさん! こいつら連携取ってますよ!」


 数体の翼人が竜にまとわりつき、残りが船員をひたすら狙う。始めから役割が決められた様に、敵は一切の指示もないまま的確に動いている。


「やれやれ、手を焼かせやがって……」


 一発の銃声に一同が振り向くと、いつの間にか金王が銃を構えている。彼は動ずる事無く、デオの頭上にいた翼人たちを次々と撃ち抜いていく。


「デオと坊やは落ちた連中を助けろ! 残りは中心に固まって迎撃するぞ!」


 金王の大声が辺りに響き渡ると、少し遅れて船員たちがその通りに動き出す。その光景にメラは自然と口笛を吹いた。


「さて勇者様よ、これでやりやすくなったろ。後は任せたぜ」

「助かる!」


 防戦一方だったゴウトが目を輝かせる。巨剣を垂直に構えると、まるで野球のバットの様に振り回しながら半魚人の群れに突っ込んでいく。


「遠慮なくやらせてもらうぞ!」


 ゴウトは刃を縦にし、超重甲ちょうじゅうこうをフルスイングする。刃の部分ではなく、刀身をもって渾身の力で「殴られた」半魚人は、突風に煽られた木の葉の様に吹き飛び、後方の仲間を巻き込みながら次々と海に消えていった。


「バカヤロー! 味方も殺す気か!」


 遠くで一人戦っていたベルの野次が聞こえる。しかし声の様子からして、まだ余裕があるとゴウトは判断した。


■■■■■□□□□□


 同時刻、とある洞窟にて。


「魔王様、ズワイガンが……」

「勝手に出たそうだな。脳まで筋肉で出来た様な男だ、仕方ない」

「応援は出さないのですか?」

「規律に従えない様な奴は足止めにでもなってもらう。我らはゆっくりと行けばよい」


 そう言うと魔王は、頭上に浮かんだ巨大な船を見た。魔力を送り込まれた『魔導戦艦まどうせんかんガラク』は、まるで獲物を欲しがる様に静かに唸りを上げている。


「空の旅になるのだ。水が恋しくて仕方ないのだろう」

「しかし……」

「まあ、あれでいて力は中々のものだ。もしかしたら勇者を倒し、聖剣を奪えるかもな」


 魔王はそう言って、乾いた笑みを浮かべた。


「ぎゃあああ!」


 騎士の一人が絶叫を上げる。見れば二足歩行の蟹みたいな生物が、巨大なハサミで騎士の鎧ごと胴体を貫いていた。


「おっと失礼! 俺ぁ魔王軍水陸部隊所属、ズワイガンってんだ。てめえらを地獄に案内する死神様よ。短い付き合いになるだろうが、どうかよろしくな!」

「貴様!」


 ドイがすかさず突撃する。しかし彼の振るった渾身の一撃は、巨大なハサミにいとも簡単に掴まれてしまった。


「お、力比べかい? 面白ぇ!」


 ズワイガンのハサミが震えると、ドイは咄嗟に飛び上がり、ズワイガンの顔面を両足で踏み付けた。反動で剣を引き抜く事に成功するが、見れば刀身にはヒビが入っていた。


「えらく自己主張の強いのが出てきたな。蟹人間? つうかズワイガニ?」

「案外食ったら美味かったりしてな……足なら食いたい」


 等と軽口を叩くベルとメラだったが、ドイの苦戦を見るなり、雑談を止めるとズワイガンへ突撃していく。


「蟹人間か……甲殻類には間違いないだろう。刀剣や矢はあまり効果が期待できねえ。あんたたちは引き続きザコ掃除を頼む」


 金王は船員にそう命令すると、銃を構えながらゆっくりと歩き始めた。ふと横を見れば、あらかた半魚人を片付けたゴウトが大剣を構えて走りだす。


「さあ五対一だぜ蟹野郎、どう打破するよ?」

「上等だよ……てめえら全員、海の藻屑となりやがれ!」


 ベルの口振りに、ズワイガンは雄叫びを上げた。


「オラオラどうした! フクロにするんじゃないのか!?」


 蟹人間は両手のハサミを豪快に振り回す。ドイとゴウトが接近戦で押さえ込もうとするが、互いの息が合わずに攻撃がたどたどしくなる。更にはその二人が邪魔となって、メラ、ベル、金王はうまく援護が出来ていなかった。


「ああやって見ると戦隊モノの殺陣たてとか良く出来てるよ。五対一でちゃんと戦ってるもんな」

「くだらない事言う暇があったら、魔法の一つでも使って援護しろよ!」

「それだ」


 言いながらメラは、戦う二人に補助魔法をかけた。急に体が軽くなり、動きがみるみる内に速くなっていく。


「ドイさんや、一撃はこっちが重い。何とか奴の足を止められんか?」

「望むなら、勇者殿」

「敵の前で作戦立てんな! 筒抜けだろ馬鹿が!」


 ズワイガンの叫びと共に、渾身の力で振り下ろされたハサミ、その裂け目にドイは剣を突き立てる。するとハサミに亀裂が入り、蟹人間は悲鳴を上げた。


「貴様ぁっ! よくも俺様の……鉄をも砕く無敵のハサミを!」

「何か勘違いしている様だな。ハサミは叩くものじゃない、挟む物だ」


 ドイは大した力を使っていない。剣も先程の衝撃でボロボロのままだ。ただ相手の脆い箇所を見極め、そこに攻撃を置いただけである。蟹人間は渾身の力で、自分自身のハサミを破壊した事になる。


「右手がダメなら左手で……!」


 ズワイガンは無事な方のハサミを振り上げるが、そのハサミは勢い良く空へと舞い上がった。


 見ればハサミどころではなく、自分の腕が胴から離れている。傷口からは微かな硝煙の匂いがする。数発の鉄製の弾丸が、細胞をズタズタに引き裂いていた。


「なるほど。ハサミの面積はデカいが、その分連結部が弱点だと……おっさんやるじゃん」

「おう。要は蟹料理と同じだ。付け根を持ってへし折ればいい」

「貴様ら! 五体一なんて卑怯……」


 ズワイガンが叫ぶよりも早く、ゴウトが剣を持ち素早く懐へ入り込む。


「そう思うなら、最初からこっちの土俵に乗るんじゃない」


 ゴウトが巨剣で蟹人間を高く打ち上げる。そこで待ち構えていた様に、メラの火炎魔法と金王の集中砲火が合流した。


■■■■■□□□□□


「弾と火炎魔法の同時攻撃か……こりゃあ即死じゃな」

「ちょっと火力が強過ぎたな。さすがに食えん」


 ゴウトは船体に叩きつけられた蟹人間を見下ろした。口から泡を吹いてるが、全身から黒い煙を上げぴくりとも動かない。間違いなく絶命していた。


「ドウヤラ、魔王軍ガ来ルノハ本当ダッタヨウデスネ」


 急に機械音声が聞こえる。振り向けばそこには、ロケット噴射で宙に浮いた、子供くらいの小さなロボットがいる。慌てて剣を構えるゴウトを金王が止めた。


「オルエルド帝国の機人きじんだ。敵じゃない」

「機人って……闘技場にいた様な奴か?」


 ゴウトの脳裏には、闘技場で戦った忍者ロボット『首切りイゾウ』が浮かんでいた。セラの人形とも違う、完全自立型の戦闘兵器である。サイズも様相も違うが、この小さな機械から彼は脅威を感じ取っていた。


「ああ、機械の体を持つ人形だ。こう見えて魔力で動いてないんだぜ?」


 改めて機人を見る。背中の炎で滞空する鉄の塊は、紛れもなくロボットとしかいいようがない。


「金王サマ、ヨロシイデスカ?」


 痺れを切らした様に、機人は噴射を止め、船体に降りた。


「悪いな、ここまで様子見に来てくれたんだよな?」

「ソノ通リデス。帝王サマノ命ニヨリ、オ迎エニアガリマシタ」


 そう告げると、周囲の海から一斉に機人たちが浮上した。中には溺れていた船員を抱き抱えている者もいる。


「デオ、あれ気付いてた?」

「いえ、全く……」


 船員を抱きかかえながらキオとデオは小さな機人たちを呆然と眺める。


「怪人の次はロボット、もはやSFだな」

「故郷が人工林の奴が何を今更」


 メラとベルが薄ら笑いを浮かべながら小型のロボットを眺める。


「人間でも魔物でもない……なんなんだこれは……?」


 船員たちは驚き、騎士たちは警戒を解こうとしない。全員の視線を浴びながら、機人は平然としていた。


「ソレデハ、我ガ国マデゴ案内シマス」


 そう言うと機人たちは陣形を取り、船を先導する様に海上をゆっくりと進みだした。

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