DISC 2→3

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■あなたは、これまでの冒険を覚えていますか?


→はい

 いいえ


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◆9章『平原』


【ゴウト】戦士、男


 出生不明にして流浪の剣士。並外れた巨体と、身の丈と同じくらいの大剣『ヘビーメタル』を扱う事から『巨剣きょけんのゴウト』と呼ばれる。


 無口だが情に厚く、窮地の時は自慢の怪力と大剣を、仲間たちの為に振るう。


 また、並み外れた腕力からか、冒険者の間では人間ではない『神々の子供』などと半ば冗談交じりで囁かれている。


<戦闘スタイル>大剣による強力な斬撃。また強靭な肉体による格闘もこなす。



【キオ】竜の子供、男


 魔王の呪いによって、竜に変えられてしまった子。村を襲われた際ゴウトに助けられ、以後はゴウトを父として慕い、旅に同行するようになる。


 無口で控え目な性格と裏腹に、竜として強靱な肉体と圧倒的な戦力を持つが、子供ゆえにうまく使いこなせず、戦闘には一抹の不安を残す。


 しかし潜在能力と成長性は無限大であり、敵との戦いを経て多彩な技を習得していく。彼がいかなる竜に育つかはあなた次第なのだ。


<戦闘スタイル>竜の体による本能に身を任せた派手な戦闘。ただし自分の判断で動くため、うまく戦わせるには入念な「教育」が必要となる。



【メラ・ランドール】騎士、男


 ファスト国の精鋭部隊「聖騎士団」の一員。規律に厳格な軍団内にて禁忌を犯した為に、戒めを込めた漆黒の鎧を着せられている。


 性格はいたって冷静。並の人間では扱えない「魔法」を使い、戦場を駆け抜ける謎の男。目立った強さこそないが、致命的な弱点もまた存在しない。


 自尊心の強さゆえ、他人を見下す様な態度も多々あるが、ゴウトの強さを認めており、厚い信頼を寄せ肉親以上の敬意を払っている。


<戦闘スタイル>ゴウトほどではないが、鋭い剣技で敵と戦う。また、自他を補佐する魔法を少々使いこなす。もっとも、彼の魔法の才能はこれだけではないらしい……?



【ベル】エルフ、女


 少数民族として知られるエルフの一人。一族の中でも卓越した体力と霊力を持ち、村一番の戦士として知られる。


 若く美しいエルフの中でも類い稀な美貌の持ち主であり、対峙した者は魅了されたまま倒されるという。腕試しが好きで、バハラの主催する「極限闘技」と呼ばれる格闘大会に度々参加し、「流星のベル」という通り名を付けられるほどの活躍を見せる。


 若さからか性格は明るく人懐っこいが、敵と判断した相手には容赦なく、自慢の弓矢を存分に浴びせかける激しい気性も持ち合わせている。


<戦闘スタイル>弓を使った遠距離攻撃に、吹矢や短剣を併用した中~近距離での不規則な戦闘を得意とし、さらに自身に負担をかけるが精霊の力を借りた「精霊魔法」を駆使する。



■長い旅路の中で、他の仲間に出会う事も……?


【『FANTASTIC FANTASY』取り扱い説明書(初版)、人物紹介より】


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◆10章『廃墟』


「じゃあね!」


 ライトとレインは手を振ると、夕日に溶け込むように走り去っていった。二人が完全に見えなくなるまで、僕は二人の背中へ手を降り続ける。


「はぁ……」


 窓を閉めると、僕は駆け込むように椅子へ座り込んだ。最近は少し体を動かしただけで全身に物凄い疲労を感じる。医者にも診てもらってはいるが自分の体の事は自分がよく分かる。僕に残された時間はそう多くないだろう。


 僕は棚から仮面を取り出した。これは父が買ってきてくれたもので、精霊が宿っているらしい。父は僕の病気を直す為に色々やってはいて、気持ちこそ嬉しいけれど、僕は少しも宛てにしなかった。


(ねぇ、僕はいつ死ぬのかな)


 仮面を着けて、僕は心に念じる。すると仮面から別の声が聞こえる。


「もうしばらくは大丈夫」


 仮面に宿る精霊だ。最初こそ自分の幻聴を疑ったが、結局は幻聴でも構うものかと割り切り、最近は僕の話し相手として第二の親友となっていた。


(前と同じだね。それっていつ死んでもおかしくない、って聞こえるけど?)

「そう受け取っても構わないよ。それより、死ぬのがそんなに恐いかい?」

(死ぬよりも……二人と離れ離れになるのが恐いな)

「そうか」


 しばらく沈黙が流れる。目前に迫る死に対し抗う方法はない、それは自分でもよく分かっているつもりだった。だからいつもの様に話題を切り替えるものだと思っていたが……。


「もし、死んでも生きていられる方法があったらどうする?」


 精霊は意外な言葉を口にした。


(そんな事出来るの?)

「俺には出来るのさ、生前の情報を記憶し、ずっとそのままでいられる事が……」

(ずっとそのまま?)

「ああ、ずっとだ。いつまでも、ここにいられる」


 数年後、タイドは病死した。彼の棺桶には、生前より肌身離さず持っていた仮面が一緒に入れられた。残された父のせめてもの気持ちだった。


 そして時は流れ、屋敷の主が亡くなり、屋敷の所有者がいなくなった時、仮面に刻まれた記憶はひとりでに再生を始める。


「タイド、待たせたな。一番楽しかった、あの時間へ案内しよう」


 嵐の夜、一筋の雷が大地を打つと炎に包まれた棺桶が宙に浮かんだ。棺桶が開き、中から仮面と白骨死体が飛び出すと、瞬く間に仮面を付けたタイドの肉体が復元されていく。


「そうだ……二人の結婚式があるんだ。お祝いしなきゃ……」


 止まったはずの時間が再び動き出し、過ぎ去ったはずの過去をひたすらなぞる。変えられない時間の中で、タイドの終わりのない青春が始まった。


【約50年前、ナムの町にて】


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◆11章『見栄』


 俺たちはかつて戦に負けた。遥か昔、様々な種族の魔物が一致団結して、自身の生き残りをかけて人間と戦ったのだが、そこで致命的な敗北を喫した。


 以来、人間たちは数を増やし土地を広げていったのに対し、俺たちはその数を減らし、人間に追われる形で住み家を転々としていった。


 戦闘技術に長けた魔物も、道具と知恵を使い団結する人間にはかなわない。だからといって身を引いて人間と共存出来る程、魔物は温厚でも器用でもない。そんな俺たちがそう遠くない将来、絶滅するのは目に見えていた。


 だが、ある日奇妙な噂を聞いた。「魔王」と名乗る人間が魔物を率いて、人間に戦争を仕掛けるという話だった。


 何故人間が魔物と手を組むのか、そもそも人間が何故「魔王」等と大それた肩書きを名乗るのか。疑問はもとより、話の真偽すら確かめる事も出来ない。だがその噂は、魔物たちに今一度戦う勇気を与えた。顔も知らない「魔王」が、俺たちの背中を押す。


 今、俺たちは近隣の村へ侵略計画を立てている。規模は小さいものの、これが成功し拠点を構える事が出来れば、仲間も自然と集まってくるだろう。


 兵力は十分。切れ者と噂のサキュバスの潜入捜査に、駄目押しで竜も雇った。相手が予想外の怪物だったりよほどの異常事態が無い限りは、負ける方が難しい布陣だろう。


 もし「魔王」とやらが実在し、戦が再び始まるというなら、俺たちも加勢出来るようにしなくてはならない。


 戦いは既に始まっている。魔物たちの未来を信じて、今こそ新たな一歩を踏み出すのだ。


【山奥にて、とある魔物】


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◆12章『選択』


 淫魔いんまという種族がいる。男女問わず生まれながらに絶対的な美貌を持ち、肉体美と色香をもって他人を誘惑する術を持つ。魔物の中でも稀少な存在であり、名前と裏腹に同族からも恐れられた存在だ。


 その習性ゆえに、淫魔は古来より暗躍を続けてきた。要人を懐柔して組織を裏から操る。あるいは信頼を重ね、家族同然の距離にまで接近して暗殺する。いかに身辺に注意を払い、どんな熟練の兵士で身を守ろうが、結局のところ人間は情欲に打ち勝つ事ができない。淫魔が動く時、人知れず世界は動くのだ。


 しかし、その力は日の当たらないもの。「心」という目に見えない領域を侵す能力は恐怖でしかなく、脅威として利用する輩は多けれど、決して淫魔そのものを信頼する者はいない。もし愚かにも信頼する者がいれば、それは騙され、利用されるだけの悲惨な結末を辿る事だろう。絶世の美貌と引き替えに生涯孤独を強いられる、皮肉な宿命を背負うのが淫魔である。


 ゆえに、淫魔として生まれた以上、野心を持たない者でさえその美貌を武器に常に権力者の影で生きてきた。何かを殺して乗っ取るか、何かを操って木陰にするかである。


 そのどちらかが、淫魔の生き方だと思っていた。


 だけど、私はとうに疲れていた。誰かを騙して生きるのも、騙した相手に恨まれるのも、そんな生き方しか選べない自分にさえも。全部が嫌だった。


 だから、この村の侵略計画を終えたら、私は何物にも囚われず自由に生きようと決めたのだ。だけど……。


「クミ!」


 私を見下ろし、少年が叫んでいた。私は彼を騙し、あまつさえ殺そうとしたのに、こうして私を介抱しようとする。信じられない。


 だけど、私は誰かを信じた事があっただろうか。今まで私を信じてくれた者たちを、私は信じる事が出来ただろうか?


「誰かを騙す事でしか生きられない」そう決め付けた瞬間から、私は信じる事を放棄したのではないか? 死を間際に後悔が押し寄せる。


 だから、最後は満足のいく死を迎えたい。


「この姿も、嫌いじゃなかった……」


 私はこの姿で彼を魅了した。これは偽りの姿だが、彼への想いはきっと本物だった。最後の最後だけど、そう強く信じよう。


 だから、この姿のまま死ぬ。宿命に対する僅かな抵抗と、私を助けようとしてくれた彼に、せめてもの愛を込めて。


【村外れの橋にて、淫魔】


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◆13章『魔法』


「はあっ……はあっ……」

「防御が出来てないな。攻めるのはいいが、もっと相手の動きに気を遣え」

「……バカ! 本気の父さんになんて、勝てるわけないじゃないか!」


 号泣するメラは、そのままセラの下へ走っていった。彼女は泣き喚くメラを抱き留め、治癒魔法を掛け始める。


(ああしている時だけは、セラも立派な母親なんだがな)


 そして治療が終わると、メラは一目散に逃げてしまった。代わりにセラが強張った表情でこちらに向かってくる。


「あなたはメラを殺す気?」

「まさか、大人になって殺されない為の訓練さ」

「こんな平和な時代に……それに、あなたのやり方は物騒なのよ! 少しは手加減ってものを知らないの!?」

「手加減なんて実践的じゃない。命をかけてこそ技は身に付くものだ。それに、君の人形の方が物騒だと思うが?」

「なっ……」

「自分の手を煩わせず、別の何かに戦わせる。感心しないな」

「何よ! あなたみたいに生身で戦うなんて、そんな古くて危険なやり方……私は認めない!」


 しばらく沈黙が流れる。そして緊張を解くように、穏やかな風が吹いた。


「魔族が息を潜めているとはいえ、地上ではまだまだ戦いが続いている。こっちだって何が起こるか分からない。一人で生きていける力を、あの子に与えたい」


 私は近くにあった剥き出しの岩に手をかざす。僅かに念じるだけで、大岩はゆっくりと浮かび上がり、手をひねると一瞬にして粉々になった。


「魔法は神が与えた究極の力だ。戦いが無くてもこの力に溺れ、自滅する者だって少なくはない。子供とはいえ……いや、子供だからこそ、それを自覚せねばならない」

「あなたらしいわね。愚直で、極端で、間違ってない。でもね……」


 セラが杖を構えると、崩れた岩がまたも浮かび上がり、空中で連結を始める。やがてそれは人の形をした物体へと変化した。


「そんな化け物じみた力を持つのは私たちだけで十分よ。もし何か起きるのなら、その時は私があの子を守るわ」


 セラはそう言うと、指をパチンと鳴らす。岩人形は一瞬にしてくだけ散ると、セラはその場から立ち去っていった。


【魔法都市パステルにて】


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◆14章『歴史』


 渦巻く灼熱の炎、おびただしい数の怪物に、辺りに飛び乱れるミサイルや重火器の嵐。人類が歴史と共に培ってきた過剰なまでの「力」が、今まさにこの惑星の息の根を止めようとしていた。


「長い」なんて言葉で片付けられないほど、気の遠くなる様な年月をかけて立っていた大地が、命を育んできた母なる海が、全てを包み込む優しい大空が、悲痛な叫びを上げていた。


「何とか……全員搭乗しました!」

「よしハッチを閉めろ! シールドを展開しつつ離脱する!」


 轟音をあげ、幾多の巨大な宇宙船が飛び立とうとする。周囲に飛び交う竜がそれに気付き、四方から炎を浴びせかける。宇宙船を包む光の防壁が、辛うじて炎を遮断する事に成功していた。


(頼む……保ってくれ!)


 事態は数か月前に遡る。迫害された竜人を中心とするテロリスト組織が用いた細菌兵器「ドラゴンコピー」により、突如大量発生した竜や怪物の群れに、人類は抵抗する術を持ち合わせていなかった。


 よって人類は、持てる知能と科学力を費やし、地球を見捨て宇宙へと逃亡する事を決意する。こうして新天地を探し移住する「ノア計画」は、ただ「生き延びる」事のみを念頭に置き、冷静な判断を欠いたまま発動された。


 多くの竜、怪物、人、動植物を残し、無法地帯と化した地球がこれからどんな末路を辿るのかは誰も知らない。少なくとも母星を捨てた我々に、それを確かめる事は許されないだろう。


 地球の歴史は今まさに幕を閉じた。我々が閉ざしてしまったのだ。


「みぃ……みぃ……」


 私はカバンを開けると、二匹の小さな竜が勢い良く顔を出した。か細い声で鳴く彼らを、私は必死になだめる。


(もし見つかったら、私もこの子と同じく八つ裂きにされるな……)


 ノア計画の準備中、偶然にも弱まった彼らを見付け保護したのがきっかけだった。おそらくドラゴンコピーの被害を受けた小動物であろう。かつてはか弱い動物だったと思しき彼らを見るに、人が犬や猫に愛着を覚えて飼う様に、私にとって竜は家族のような存在になった。


 決して許される事ではないが、無事どこかの惑星に着いたら、彼らを放そうと思う。そして他の種族同様に、子孫を増やしてほしい。


(きっと、私は歴史に記されるほどの大罪を犯すだろう。だけど……)


 人が作り出した兵器である前に、彼らもまた意思を持つ生命体である。そして、いつか辿り着くであろう新世界において、彼らを処罰する権利など誰にもないのだから。


【年代不明、ある宇宙船の一室にて】


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◆15章『誇示』


 彼は物心付いた時から力には自信があった。人よりも体格に恵まれ、それに伴うように筋力も付いた。いつしか「怪力」と呼ばれる様になり、自分でもそれが当たり前だと意識する様になった。


 だから、彼の中では既に一般的な大剣や槍など、大型の武器は物足りなくなっていた。自分の力に行き詰まったからこそ、とあるドワーフが作り出す規格外の大剣「シバの巨剣」の噂を聞き、より強い剣をと店へ出向く。数々の怪力さえも退ける剛剣、自分なら容易く扱えると信じていた。


 だが、そこで知ったのは己の浅はかさだった。シバの巨剣を、彼は持つ事さえ出来なかったのだ。


(馬鹿な! こんな事が……俺の力がこの程度だと……)


 全力をもってしても剣は微動だにせず、まるで剣そのものに力が吸い取られる様だった。そして「怪力」と呼ばれたこの力も、所詮常識の範疇でしか無かった。巨剣を持てず、そして「怪力」に甘んじていた自分を恥じた。


 彼の築き上げた十数年の誇りは、たった一つの剣を前に崩れ去ったのだ。


「この剣……買います」


 しばしの絶望の後に、彼はいつの間にかそう口走っていた。咄嗟に出た負け惜しみだ、しかも口に出した以上撤回は出来ない。シバは豪快に笑ってこう聞き返した。


「どうやって持ち帰る気だ?」

「今は無理ですが、いつか必ず、自分の手で」

「そうかい。ま、金はその時でも……」


 彼は考えるより先に、巨剣の代金を机に置いた。使えもしない剣を買う、曲がりなりにも「怪力」を名乗った人間の最後の意地だった。


「これで剣は私の物です、しばらく預かってください。いつか必ず、必ず取りに戻ります」

「……負けず嫌いな奴だな、お前の名は?」

「ズパー・ザン」

「ズパーか、いいだろう。少しは期待してやる」


 名前を告げると、シバは剣に彼の名を刻んだ。


 そして彼は長年の修行の末、剣を扱う力を手に入れた。一人の剣士と剣の出会い、後に『剣王』と呼ばれる世界最高の剣技を持つ男と、数多くの怪物を倒し、伝説の剣として語られる『メガソード』の誕生した瞬間であった。


【シバの鍛冶屋にて】


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◆16章『勝負』


巨剣きょけんのゴウト』剣士、男

 並外れた怪力で知られる剣士。準決勝まで進むが、対戦相手『流星りゅうせいのベル』と共に行方不明になる。時間になっても両者現れず、試合放棄と見なされた。


『ランド』盗賊、男

 バハラでは悪名高い盗賊。初戦にてゴウトと対戦。素早い動きとナイフさばきを持ち味とするも、圧倒的な力の差を見せられ敗北。


『キオ』竜人、男

 伝説の竜人。初戦にて『首切りイゾウ』と対戦。人と竜の形態を駆使し攻めるも、一撃必殺の首切りを受け敗北。


『首切りイゾウ』忍者、男?

 全身赤装束の謎の忍者。二回戦目でゴウトと対戦。全身刃物の体で追い詰めるも巨剣の連撃に耐え切れず敗北。なお毎年参加する常連選手だったが、今大会で人間ではないと判明。大破後に所有者が申し出ると、残骸が回収された。


『クロス』僧侶、男

 神に忠誠を誓うも戦闘狂で知られる若き僧侶。初戦にて『流星のベル』と対戦。両手に棍棒を持つ異色の戦法を得意とするが、接近戦を許さない弓矢の波状攻撃を前に敗北。


『流星のベル』エルフ、女(自称)

 神秘の種族エルフ。極限闘技の常連者だが、例年と違って今年はまるで別人のような姿に場内でどよめきが起こった。とはいえ華麗な戦闘は健在で準決勝まで進むものの、対戦相手のゴウトと共に行方不明となり、試合放棄と見なされた。


剣舞けんぶマヤ』踊り子、女

 世界を旅して回る女芸人。二回戦目で『流星のベル』に敗北。しかし剣と舞踊の融合した「剣舞」と呼ばれる独特の技と、選手の美貌に会場が沸いた。


山王やまおうドライゼ』山賊、男

 山賊。初戦で『剣舞マヤ』に敗北。あまりにも実力差が激しかったため、選抜試練には運良く生き残れたのではないかと推測される。


剛剣ごうけんズパー』剣士、男

 ゴウトに並ぶ有数の巨剣使い。得意の大剣をはじめ様々な剣を駆使し二回戦目まで進むが『金王きんおう』の魔法に敗れ去る。


炎魔えんまアギ』魔法使い、男

 火術を得意とする魔法使い。初戦で『剛剣ズパー』と対戦。多彩な火の魔法で攻めるが敗北。


ソウルのメタル』吟遊詩人、男

 旅先で雄々しい英雄譚を歌う情熱の吟遊詩人。初戦で『金王』と対戦。鉄の琴を取出し、叫ぶ様にして歌いながら振り回すが、銃で撃たれて敗北。しかし彼の戦いぶりに一部観客からは拍手が送られた。


千拳せんけんフルボ』武道家、男

 山奥の村で脈々と受け継がれる門外不出の武術「ミヤギシキ」の使い手。素早い動きと拳法で二回戦まで進むが『鉄騎てっきチェイミー』に敗北。


魔剣士まけんしヴァニトゥ』剣士、男

 悪魔狩りを生業とする流浪の剣士。初戦で『千拳フルボ』と対戦。魔法を使って自身を強化するが、相手の速度に付いていけず敗北。


『ヤック』戦士、男

 ファスト王国の誇る最大兵力、聖騎士団の一員。初戦で『鉄騎チェイミー』と対戦。チェイミーの駆る古代兵器と銃を前に、為す術のないまま敗北。


 今大会もまた個性豊かな戦士が集り、そしてこの様な俗に塗れた祭典に、おおよそ興味のなさそうな著名な冒険者『巨剣のゴウト』が参加し、更に行方不明(深夜にベルと共に会場に残っていた所を発見。双方重傷を負っていたため、急遽近隣の宿屋に移送された)という幕切れに会場が揺れた。


 このように波乱に満ちた本大会で、決勝に残ったのは……。


【第32回極限闘技、報告書より】


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◆17章『決着』


【では、第32回極限闘技優勝者『金王きんおう』、本年度最強の戦士となった気持ちをお聞かせください】


 会場に響き渡る司会者の声に、割れんばかりの大歓声に炙り出される形で、金王はゆっくりと場内へと進む。中央に控えていた係員から、何やら小型の黒い装置を渡される。


「拡声する『魔具まぐ』か……人前で喋るのは苦手なんだがな」

「商人なのに口下手とは言い訳にもなりませんよ。一言だけでも構いませんので」


 金王は苦笑いを浮かべつつ、魔力の込められた装置を受け取ると、ゆっくりと語りだした。


「俺は……強くない。ここに立っているのも、大部分が時の運ってやつだろう」


 意外な切り口に、会場がどよめく。しかし大観衆を前に、金王はまるで動じない。


「そりゃ、少しは体を鍛えてるし、魔法も噛った程度には使える。だけど重い剣をぶん回したり、でかい火の玉を投げ付けたり、特別足が速いわけでもねえ」


 金王は言いながら、背負っていた長銃を天に掲げた。


「全てはこいつのおかげだ。決勝戦の相手だって銃を使った。卓越した剣術や大魔法にも、道具ひとつで勝ててしまった……どうだい? 呆れちまうだろ」


 気付けば、観客席から見えない様に、場内の影に係員の姿が増えている。彼らは一斉に金王を睨み付ける。


「雲行きが怪しいな……何を言っている?」

「配置に着け、少しでも変な事を言いだしたら取り押さえる」


 そんな彼らを気付いてか、金王は不敵な笑みを浮かべると、こう続けた。


「実はこの銃、今売り出している新商品なんだが、性能は今大会で見せた通り……」


 突如宣伝文句を並べ始める金王に、司会者は声を荒げた。


【金王! ここは宣伝する場じゃない! 神聖な闘技場を汚すつもりか!?】


「生憎だが、才能のある奴は芸を売る。俺みたいに芸のない奴はな、物を売るんだよ」


 合図がかかると、係員が一斉に飛び出してくる。しかし彼らの前に突如魔法使いが飛び出し、防御壁を展開し始める。


「貴様ら!」

「悪いね、金王の旦那にゃ世話になってるんでね」


 あらゆる攻撃を遮断する、無敵の壁が金王を包む。更に上空から小型の竜が飛んでくると、金王は素早く飛び乗った。


「これさえあれば魔族も怖くない、引き金一つで敵は倒れる。女子供の自衛にも、兵士の武器にも最適だ。今なら特別価格……」


【金王! 貴様あああああ!】


 金王は自慢の銃をたっぷり宣伝した後、係員の追走をあっさり振り切って逃亡。直後、臨時の店舗を展開していた金王の銃は完売した。


 なお、この時試合を観覧していた王族たちがこぞって銃を購入。以降、戦争は急速に発展を遂げ、剣と魔法から銃の時代へと移り変わってゆく。役立たずの剣はやがて儀礼や芝居の道具となり果て、魔法は使い手の減少から幻の技術となっていった。


 それでも、人々は闘争を求めて止まない。たとえ時代遅れになろうが卓越した剣技や武術は戦いの華であり、人知を超えた魔法は一種の芸術だ。時間が止まったままの極限闘技に、人々はいつまでも最強の夢を見る。


 かつて戦場を彩った、剣と魔法の時代に思いを馳せて。


【第32回極限闘技、閉会式にて】

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