5章 『山奥』 Grand High
山は遠い、山は高い、山は険しい。人を寄せ付けないその土地で、人は山にしがみ付くように生きる。
人里離れた土地ゆえに交流も盛んではなく、文明から取り残された空間で、人は堪え忍んで生きる。
そして山は、そんな人々を相手にせず雄大に立ち尽くす。森を切り開き、湖を枯らす人間でも、山は簡単に崩せない。
山は遠い、山は高い、山は険しい。人を寄せ付けないその土地で、人は山にしがみ付くように生きる。
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「……ちゃん……じいちゃんってば!」
「学!」
私は勢い良く体を起こす。すると目の前に巨大な竜の顔があった。一瞬体が凍り付く。
「っと、ここじゃキオか……間近で見ると、心臓に悪いのう」
「じいちゃん……そりゃないよ」
キオとの再開に安堵する反面、この世界に戻ってきた事に、ふとため息が出てしまう。
「キオはずっとこっちにいたのか?」
「うん。一回死にかけたけど、『魔王』が助けてくれたんだ」
「魔王か……こりゃまた大層な人に助けられたのう」
「うう……」
隣を見ると、メラが兜を拾いながら体を起こしていた。
「メラ!」
「ちょっとツレがうるさくてね、強引に戻ってきた」
「家族か? ワシらはさておき、あんたは一人で来たんじゃろ、戻らなくて良かったのか?」
「やりかけのゲームは途中で投げない主義でね、あと困っている年寄りと子供も放っておけないしな」
「世話焼きじゃな……ありがとう」
キオが呆然としながらメラを見る。何一つ喋ろうとせず、単純に素顔に見とれていた。
「そういや自己紹介がまだだった。アタシ
「あ……ぼくは
「メラで良いよ。オレもキオって呼ぶから、よろしく」
メラがキオの鼻を撫でると、キオはすっかり赤くなってしまった。
「……なるほど。その『魔王』ってのに連れてこられたわけね」
「肩書きからして、やっぱり敵なんじゃろうか?」
「そりゃ昔のゲームならな。最近じゃ後で味方になるパターンも多い。それにオレたちを助けた以上、今は戦う気が無いんだろうよ」
メラの言うことはもっともではあるが、見ず知らずの、それも「魔王」だなんて大層なキャラクターに助けられる。またもや謎を抱えてしまったみたいだ。
「とても強くて、一瞬で兵士をやっつけちゃった」
「騎士団は全滅か……仮に戦力が残っていたとしても、さすがにこんな山奥までは追撃してこないだろう」
「追っ手の心配は無しか。しかし、ここはどこなんじゃろうな」
改めて周りを見る。どこかの山奥だろうか、背の高い木々が我々を囲む。
「そういう時は現状把握。とりあえずこれを使ってみるか?」
そう言ってメラは、鎧の中から水晶玉を取り出す、私とメラの水晶玉は、同じ方向を指していた。
「前に進め、という事なんじゃろうな」
「だったら飛んで行こうよ、あっという間だよ!」
キオが翼をバタバタさせる。
「ダメじゃ。目的地も分からん以上、地道に歩いていくしかない。目立つように行動しなければ……で合ってるじゃろ?」
私は恐る恐るメラの表情を伺った。といっても、兜で覆われた顔では、何も分からないが。
「ごもっとも。ファスト国からどれだけ離れてるのか分からないからな。命を狙われた以上、下手に戦うのは避けたい」
「国王か……」
ふと洞窟での戦いを思い出す。奇跡的に生き返ったものの、私たちは一度全滅している。もしあの時キオが来なければ……。
「やはり、ワシらを消すのが目的だったのかのう」
「にしては、キオを捕縛したのが気になる。その気があれば全員を洞窟で仕留める方法もあったはずだ。本命は大臣で、より確実に抹殺するために俺たちが派遣された。そんな気がする」
「まるで駒じゃな」
「なんにせよ、俺たちを一度殺した男だ。今後は敵と見て問題ないだろう」
「……あっ」
キオが思い出したように声を張り上げた。
「そうだよ! ナインダさんが言ってた。王を倒せって」
「ナインダ?」
「ぼくを助けてくれた兵士だよ」
「メラは知ってるか?」
「推測だが、多分見張りの兵士だ。名前は……知らない。元来重要なキャラじゃなかったんだろう」
「名前が無くっても、ぼくには重要な人だったよ……」
キオは思わず目を伏せた。
「重要となったのは、キミが関わったからだ。単に城を抜け出すだけなら、その兵士も付いてくる理由が無い。そいつはキオの力になりたかったんだろうよ」
「……うん」
「あんま沈むなよ。まだ誰かを背負いこむ様な歳じゃないだろ? 前を向きな」
メラはそう言って、きびきびと歩き始める。
(純子さんや、あなたも誰かを背負いこむ様な歳とは思えないが?)
私はそう思ったが、言葉にするわけにもいかず。黙って彼女の後に付いていった。
「待ってよ!」
そしてキオも、やや遅れて私たちを追い、ドスンドスンと歩きだした。
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水晶玉の導きの下、私たちは山道を歩き続け、しばらくして村に辿り着いた。
入り口に近づくなり、周囲にいた村人たちが動きを止め、警戒しながら距離を離す。次第に中から若い男が一人、槍を手に前へ出た。
「率直に問う。あなた方は何者だ?」
「ワシらは旅人じゃ。ふとした事で山道に迷い込んでしまってな」
それを聞いて男は、怪訝な表情で私たちを見回した。
「怪しいな。鎧を着た老人と真っ黒な騎士、それに子供の竜……」
「あれ、僕が子供って分かるの?」
キオの声に男だけでなく、村人たちも驚いた。
「もしかして、君は人間か?」
「そうだよ。呪いで今はこうだけど」
村人たちが慌てふためく。やがて一人の老婆が村人に連れられてやって来た。
歳は私と同じくらいだろうか。しかし老婆は杖を突きつつも背筋を伸ばし、しっかりとした足取りで歩いてくる。彼女は鋭い目付きで私を睨み、そして背負った剣を見て驚く。
「これは折れた剣ですね、すると元の大きさは……もしや、あなた様は『巨剣のゴウト』?」
「ええ、まあ」
「失礼ながら、見たところ歳は私と近い様ですが……さすがは歴戦の勇者と言った所でしょうか」
「村長、彼らを知っているのですか?」
「そちらの騎士と竜は分かりませんが、この男は『巨剣のゴウト』。名だたる戦士と存じております」
老婆の発言に村人が動揺する。それは単純な驚きと、一方で予想していた人物像と違った、戸惑いが見えた。
「何だかその、期待を裏切る様で申し訳ない」
「いえ、こちらが一方的に想像をしていただけですから。無礼をお許し下さい」
私はまるで偽物に成り済ました様な、そんな後ろめたさを感じた。今更ながら、自分が勇者を演じる事に抵抗を覚える。
「さてゴウト殿、この竜が元は人間というのは本当ですか?」
「ああ、ワシの子供じゃ」
「なるほど……どうやら過去に、魔王と会ったことがある様で」
「と、言いますと?」
「その子はもしかしたら、魔王の力で竜にされたのかもしれません」
キオの話が頭をよぎる。ゴウトの息子キオ、彼は魔物の襲撃を受け、呪いで竜とされた。そしてゴウトは息子を人間に戻すため、旅に出たのだ。
「この呪いを知っているのか?」
「身内に一人いましてね、よければ家でゆっくりと話しましょう。日も落ちてきた事ですし……」
そう言うと老婆は、背を向けて歩きだした。
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「さて、そこの子には悪いけど、このまま話させてもらうよ」
家と言ったが、テントを張ったような空間だったので、キオだけ顔を伸ばし、入り口に近付けていた。
「まず、魔王と竜の呪いを知る前に、私たちの事から話しておきましょう。ちょっとした昔話です、よろしいかな?」
「ワシはいいが、二人は?」
「いいぜ。オレはちゃんと村人全員と話すクチだ」
「ぼくは真面目に聞くよ、自分の事なんだから」
「と言う事じゃ。問題ない」
「そうですか、では最初から話しましょう」
老婆はあぐらを一度崩し、足を組み換える。そして静かに語りだした。
私たちはかつて国を持っていた。そしてある国と戦い、敗れた。
領土と民を奪われ、私たち王族やその近辺に属する者は、命からがらこの山へと逃げ込んだ。
最初こそ、激しい残党狩りも行なわれ、私たちも抵抗したが、その度仲間たちが減り、やがて私たちは戦いを止めた。
「今も残党狩りは続いてるのか?」
「昔も昔の話ですよ。我々の戦意が完全に消えて、抵抗する力が無いと判断されてから、今は静かに暮らしています」
そして戦いに疲れ、もう表へ出られなくなった私たちは、山を開拓し、ここを第二の故郷にした。
「全て自給自足で、世間との交流も無い。だからこそ、こんな山奥に旅人なんて来やしないのです」
「まあ、通り道でも無いのに、普通山に来ないよな。疑われて当然か……」
昔の栄華はどこにもないが、それでも私たちは、ようやく手に入れた平和を満喫していた。例え文明から取り残されようとも、自然と共に暮らすことが、私たちにとっての規律のように思えた。
「豊かではないが誰一人欠けることなく、私たちは寄り添って生きてきました……あの男が来るまで」
「もしかして……魔王?」
「そう。人間でありながら魔族を率いて、人と戦い、この世界を統一しようとする男」
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話は過去へ遡る。今から数年前、その男はたった一人で何の前触れもなく村へ訪れた。予期せぬ来訪者を前に、村人たちがざわめく。
「旅人? まさかファスト国の刺客か……」
「俺が出る。ここで待ってろ」
腕自慢の若い男がそう言うと、槍を持ち出し、不審な男の下へと向かう。
「率直に問う。何者だ?」
得体の知れないその男に、若者は槍を手に口調を強めた。
「俺はテラワロス。肩書きは『魔王』で通っている」
『魔王』だなんて言葉、魔族が影を潜めて久しい現在では荒唐無稽で子供でも使わない。ただ男が放つ異様な空気に、若者はそれが冗談であったとしても、この男が只者で無い事を十分に感じ取っていた。
「その魔王が何の用だ。見ての通り、この村に侵略価値はないぞ」
「いきなり喧嘩腰だな。魔王を名乗っただけでその対応か」
「本気かどうか知らないが、わざわざこんな山奥まで、冗談を言いに来る人間はいないからな」
そう言って若者は槍を構えた。魔王は溜め息を吐くと、淡々と話しだした。
「……噂を聞いてな。かつて大国に攻められ、滅んだ国があると」
「ありきたりな話だな。戦争の話が聞きたければ、山を下りて大きい町にでも行け」
「俺はな、その大国と戦うために、仲間を探しにきたのさ。出来れば復讐心に駆られた、根っからの反逆者が理想だな」
「……私たちはここでずっと暮らしてきた。そんな大国に恨みを持つような人間はいない」
「そうかい。しかし君の槍の構えは、何か訓練を受けた動きにも見えるな。本当にただの村人か?」
若者の槍を持つ手が止まる。
「……どういう意味だ」
「ただの村人は、そんな軍人みたいな動きは出来ない。まるで動物を狩ると言うより、人間と戦う様な動きだぞ?」
魔王の言葉に気が障ったのか、若者は素早く腕を捻り上げると、一瞬にして槍を目の前に突き付ける。それでも魔王は、まるで初めから寸止めを予想していたかの様に微動だにしない。
「一方的にベラベラと……不愉快だ。今すぐ消えろ」
「どうやら機嫌を損ねた様だな、今日の所は出直そう」
魔王はそう言うと、不敵な笑みを浮かべながら去っていく。
(気味の悪い奴め)
若者は槍を構えたまま、その場に立ち尽くしていた。
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「その村人も、妙にカリカリしとるな。図星だったのか?」
「魔王の勘は間違ってはいませんでした。その者は騎士団長を父に持つ男で、戦で父を失っています。魔王がそれを最初から知っていたのかは分かりませんが、希望に沿った人材を引き当てたのです」
男の名はアイン。誇り高い騎士ゆえに、最後まで抵抗を主張した、血気盛んな若者だった。
魔王が来たその日の夜、アインは私に相談してきた。
「女王様……」
「まだ言うのですか、私は村長です」
「……ドーラ様、昼間の男ですが、どう思われますか?」
「自称魔王ですか。今のところ危害を加えてくる様子はありませんが……油断はできません」
「奴は再来を告げました。今度来た時は?」
「どうもしません。百回来ようが、私たちの団結は崩れません。例え脅迫されても、誰の言いなりにもなりません。だから……」
私はアインを睨み付けた。
「何があっても一人で抱え込むんじゃありません。戦う時も、逃げる時も、私たちは一心同体。よいですか?」
「はい……」
だが、私たちは知らなかった。魔王と出会い、アインの心は揺れ動いていた。
「ん?」
突然、ゴウトの脳裏に情景が浮かび上がる。彼女が知る事の無かったアインの記憶と過去が、まるで映画のワンシーンの様に映し出される。
見ると、メラとキオも同じ様に放心状態だった。やがてゴウトは自分の肉体が消滅し、完全にその記憶の中の「第三者」と化していた。
危険な男との出会いは、長らく平穏な世界にいて、忘れかけていた闘争心を呼び覚まされた様だった。度々訪れる魔王に、彼は段々と時間を割くようになる。
「時折思う。あの時俺がもっと強ければ、一人でも多く敵を倒せれば、父も国も守れたに違いないと」
ある日、アインは魔王と共に、村の近くの滝へ出ていた。彼は既に警戒心を解き、魔王と打ち解けていた。
「同じ種族なら仕方ない。能力が同じなら、あとは装備と人数で決まる。鍛えた技と体というものは、集団戦では微々たるものだ」
「同じ種族か……個人が強くても、総合力に負けるのか」
「つまりだ、総合力を覆す程個人が強くなればいい。馬に乗った兵士は、ただの兵士の数倍は活躍するだろ? 道具や武器に頼れば良い」
「人には限界がある」
「なら、人を捨てるのさ」
アインの心にその言葉が強く突き刺さる。それは頭では否定しながらも、どこか心を掴んで離さない、悪魔の囁きだった。
アインの不可解な外出が増え始めてからある日、不審に思った私たちは、彼を問い詰めようと後を追った。
悪い予感は当たった。そして、あまりにも行動が遅すぎた。
「急がないと!」
場面が変わり、ゴウトたちは走っている。厳密に言えば、村長ドーラの視点で動いていた。
自分の意思で動く事は適わず、過ぎ去ってしまった時間と思考、そして結果だけが鮮明に再生され続ける。
「アイン!」
アインは魔王の前で頭を抱え呻いていた。慌てて駆け寄るが、彼はドーラを乱暴に振り払った。
「あなたが魔王ですか、アインに何を!?」
「人聞きが悪いな婆さん。俺は手助けをしてやっただけだ」
「ガアアアア!」
突如アインが奇声を上げる。見ると衣服が破れ、体が徐々に大きくなり、翼と尾が生えかかっていた。
「この男はな、今まさに人間を越えようとしている。内なる怒りと憎悪を燃やし、人間という殻を破り捨てているんだ」
「人間を捨てるだって? すぐに止めさせなさい!」
「分かってないな婆さん。望んだのはアインだ。彼はもう一度ファスト国と戦おうと決意したのだ」
アインはもがき苦しみながら、一層体を大きくさせる。
「アイン聞きなさい! お前は誇り高い騎士です。戦で負けたって、剣や鎧がなくっても、その魂は死んではいません! 思い出して!」
「女王……様」
「人間は弱くなんかありません! 人には知恵と意思、そして誰かを思いやる心がある、神がくれた我々だけの強さです!」
「こころ……」
「止しな婆さん。この儀式は危険なんだ、邪念が混ざるとアインが死ぬぞ」
(そうだドーラさん。落ち着くんだ、アインを信じろ!)
(逆効果だ! アインが錯乱しちまうぞ!)
ゴウトたちは思った。しかしこれは過去の再現に過ぎない。どんなに祈っても、あるいは叫んでも、結末を変える事はおろか、それから目を逸らす事も許されなかった。
そして、私の主張は止まらない。続く言葉に苦悶するアインを見ては、私は思い付く限りの言葉を叫んでいた。だが……。
「人間に誇りを持ちなさい! もし……もし、欲望に負けるのならば……」
今にして思えば、私は冷静さを欠いていた。どこか魔王の挑発に乗せられていた。だから説得に失敗したのだ。
「人として死になさい!」
「ああああああああああ!」
その言葉を引き金に、アインの絶叫が山に響き渡る。一瞬にしてアインの肉体は劇的な変貌を遂げ、巨大で真っ黒な竜になっていた。足元には破れた衣服が見える。
(この竜は……)
キオには見覚えがあった。魔王が乗っていた、あの巨大な竜であった。
「アイン!」
私が問い掛けても、アインは何も答えなかった。竜になったとはいえ、虚ろな目からは感情が読み取れない。微動だにしない巨体からは、生気というものが一切感じ取れなかった。
「『人として死ね』か。ご要望通り、人間の心は死んだ様だな」
「じゃあ、この竜は……」
「怒りと憎悪、そして力への欲求で生まれた、最強の怪物だ」
「……戻せ! アインを今すぐに!」
私は短刀を引き抜くと、怒りに身を任せて魔王に斬り掛かった。村人たちも続いて、得物を振り上げる。
しかし魔王が片手を向けると、私たちは突風に吹かれ、後方へ吹き飛ばされた。
「おかげで良い相棒が出来た。協力に感謝する」
「返せ……アインを……」
「心配するな。彼の意思を尊重し、いずれファスト国は潰す。お国の為に尽くしてもらうさ」
「そんな事は誰も……」
「いいや、彼だけは望んだ。復讐と、国の復興をな」
魔王は黒い竜に飛び乗ると、そのまま空高く飛び去っていく。そのシーンを最後に回想は終わり、ドーラの小屋に私たちは戻っていた。
「アインは人を捨てて、竜の道を選びました。仮に魔王を倒し人間に戻れたとしても、失われた心までは戻らないでしょう……」
「つまり、キオも自分で竜になったと?」
「おそらくは……少なくとも、私が知っている人が竜になるというのは、それ程までに凄絶なものだった」
私はキオを見た。話が長くて退屈したのか、村の子供と遊んでいた。長い首を滑り台の様にしたり、大人数を乗せては空を飛んだりしている。老婆はその姿を見て笑った。
「でも、あの子には人の心がある。それも純粋で無垢な心が」
「中身は子供じゃからな」
「ならば、その心がある限り、あの子は人間ですよ」
■■■■■□□□□□
私たちはその後村に一泊し、朝を迎えていた。私とメラは荷物をまとめ、キオは子供たちに別れを告げていた。
「結局、昔話に付き合わされただけだったな」
不意にメラがぼやく。
「まあ、そういう事になるな」
「ゲームをやってる時は気にも止めないが、いざ自分が入り込むと嫌なもんだな……」
「ん?」
「他人の昔話。もし今後アインに会って、オレたちは何をすればいい? あいつの呪いも解けってか? サブイベントまで面倒見切れねえよ……」
メラはそう言い切り、さっさと外へ出てしまった。
「……ゴウト殿、お願いがあります」
外へ出ると、待っていたかの様にドーラから声をかけられる。
「もし、これからアインに出会う事があったら、彼の名前を呼んであげてください」
「名前ですか?」
「無駄かもしれません。敵として阻むのであれば、殺しても構いません。ただ……」
突然村人が騒ぎだす、見ればキオが火を吹いていた。子供たちが喜ぶ中メラが慌てて駆け寄り、キオを叱っている。
「あの子を見てると、もしかしたらと思うのです。人の心を取り戻せれば、きっと……」
「爺ちゃん! 早く行こうよ!」
キオが急かす。私は大声で返事をした。
「最後に聞きたいのですが、ここから一番近い町を知りませんか?」
「西へ下れば、大きな町が見えてきます。旅の支度に役立つ事でしょう」
「ドーラさん、色々世話になりました。また……」
私は言いかけて止めた。ゲーム相手に、私は本気になっているのだろうか。
「……いえ、お元気で」
「あなたこそ、高齢という事をお忘れなく。精神は若くとも肉体は朽ちていくのみなのですから」
「なかなかに手厳しいですな」
「自戒も兼ねていますので、どうか旅のご武運を」
私たちは村を出た。振り返れば、ドーラと子供たちが、いつまでも手を振っていた。
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