2章 『王国』 The Tower
人は力を秘めている。そして時間は人を変化させ、その力に優劣を与え、弱者と強者を生み出した。
弱者の上に強者あり。強者の陰に弱者あり。弱者は上を目指すべく強者と戦い、身を守るために弱者と群れ、強者は他の強者を倒すために弱者を率いた。
強者と強者が戦い、勝ち上がる度に弱者を踏み台に昇っていく。やがて強者が一人になったとき、強者は王となり、土台となった弱者は国となった。
人は力を秘めている。そして時間は人を変化させ、その力に優劣を与え、弱者と強者を生み出した。
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竜となった学の背に乗って、私は空を飛んでいた。体が空に野晒しなのに、まるで車の中にいるような安定感がある。本当にゲームの主人公になった気分だ。
「そういや、じいちゃんはこのゲームの話知っている?」
少し退屈したのか、学が話し掛けてきた。
「ちっとも。学は知っているのか?」
「ぼくもね、説明書を一回読んだぐらいで、くわしくは知らないんだけど……」
学は咳払いの代わりに、大きくはばたいた。
「戦士はゴウト、竜はキオ。キオはゴウトの子供で、魔物の呪いで竜になっちゃったんだ」
「えっと、ワシがゴウトで、学がキオなんじゃな。この竜が元は人間なのか……」
改めて学の背中を見る、見るからに硬質な肌はまるで岩のようだ。生物としてはあまりに巨大で、おまけに鋭い爪に火まで吹く。どう見ても人間と共存できるような存在ではない。これが呪いであるならば、キオの心境はいかなるものだろうか。
「それでゴウトは、キオを人間に戻す方法を求めて旅するんだって」
「人間に戻る。確かにその体じゃ、家には帰れないな」
「そういうじいちゃんだって、えーっと……あれだ『銃刀法いはん』で捕まるよ?」
「確かに。しかし、学は難しい言葉を知ってるなあ」
話しているうちに城下町が見えてくる。学の姿を見られてか、町の出入口と思しき門が急いで閉じられ、門兵たちが弓を構えるのが見えた。
「学……」
「キオ。じいちゃんもここではゴウトだよ」
「分かった……キオ、必ず元に戻してやるからな」
私は力強く返す。それは半ば、自分を奮い立たせる為の虚勢でもある。
何事も勢いは大切だ。入念な計画があっても、勢いがなければ行動は起こせない。そんな長年の経験を、ここでも生かそうと思った。
「止まれ!貴様は何者だ!」
門兵が叫ぶ。私は立ち上がり、大剣をかざして大声で応えた。
「ワシはゴウト! 国王の依頼で魔物退治から戻ってきた!」
「その大剣……分かった! 今門を開く!」
門兵たちが弓を下ろし、門がゆっくりと開かれる。
「……じいちゃんって、意外にノリやすいんだね」
キオが小さく笑った。
門が開き、いざ入ろうとしたその時、キオの姿を見てか、奥にいた別の門兵が槍を構えて出てきた。
「ゴウト様。いくらあなたが偉大な勇者でも、さすがに竜を町に入れるわけには……」
「見た目は竜じゃが、この子はワシの子じゃ。大丈夫、暴れやしないから」
「そうだよ! おとなしくするからさ!」
キオが喋ると、門兵たちは一斉に驚いた。
「竜が喋った! しかも子供の声だぞ!」
「人の言葉を話す竜など聞いた事がない。第一、竜を連れた人間なぞいるのか!?」
門兵たちが動揺する。やがて騒ぎを嗅ぎつけてか、奥からは野次馬が集まりつつあった。
「ぼく、まずい事言っちゃった?」
キオが困った顔でこちらを見た。爬虫類のような顔でも、不思議と表情は伝わるものである。私はとりあえず腕を組み、何かを考えようとした。
「てめえら、何騒いでんだ!」
どこからか飛んできた声に、門兵たちは黙り、野次馬は雲を散らすように去っていった。
「竜が喋れないとか、田舎者かっつうの。人語を理解する『賢竜』すら知らないのか?」
奥から現れたのは、全身を黒い鎧で包んだ不気味な騎士であった。顔も漆黒の兜に覆われ表情が分からないが、キオを見ても変わらない乱暴な口調や態度からは、堂々とした強さと自信を感じさせる。声からして若者のようだが、周囲の兵士は明らかに緊張していた。
「メラ様……しかし竜を町に入れるのは、あまりにも危険かと……」
「もしその竜が暴れだしたら、オレが首を切り落としてやる。いいから入れてやれ」
「……了解しました」
残った兵士たちも武器を下ろす。周囲の視線が突き刺さる中、謎の黒騎士に連れられると、やっと私たちは町の門をくぐる事が出来た。
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「悪いな。この国は最近魔物の襲撃にあったばかりで、少しビビっているのさ」
黒騎士はさっきとうって変わって、砕けた口調になった。声色も心なしか棘がなくなり、好意的な態度に安堵を覚える。
「よかった。ぼく、首を切られるかと思ったよ」
キオがそう言うと、黒騎士は少し黙って、こう言った。
「首はさすがに無理だが、目玉ぐらいは潰す。万が一暴れたらの話だがな」
それを聞いて、キオはすっかり怯えてしまった。
「しかし、どうしてワシらを入れてくれたんじゃ? 竜に乗った老人なんて、どう見ても怪しいじゃろ」
「その老人が、大剣を背負ってなけりゃあな」
黒騎士はそう言って、私の背負った大剣を見た。
「人呼んで『ヘビーメタル』。ただひたすら大きく、そして重いだけの鉄の塊。そんな物を軽々扱う人間なんて、この世にそうそういないね」
そう言って黒騎士は私達を見た。
「だから『巨剣のゴウト』、アンタの見た目がジジイで、連れがドラゴンでも、そんなのは些細な問題なのさ」
「ワシって、そんなに有名?」
「ああ……ってアンタ、自分の設定も知らないのか?」
「えっ?」
私とキオが驚き、その場で立ち止まる。
「……まぁいいさ、まずは王様が先だろ? さっさと怪物退治の報告をしなきゃな」
そう言って黒騎士は、目の前の城門を指差した。
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「聖騎士メラ・ランドール。勇者ゴウトを連れ、今戻った!」
黒騎士が叫ぶと、城門はゆっくりと開いた。
「聖騎士なのに、真っ黒いなんて変なの」
キオの声にメラが振り返り、歩み寄る。さっきの言葉を思い出してか、キオが怯える。
「悪いが、キミはここまでだ」
意外にもメラは優しい口調で、キオの頭をなでた。キオは唖然とし、思わず固まった。
「おい、誰かこの竜の面倒を見てやってくれ」
メラが門兵に指示すると、すぐに違う兵が出てきて、キオの下へ駆け寄る。
「えっと……」
「キオだよ」
「で……では、キオ様はこちらへ」
兵に連れられ、キオはドスンドスンと足音を立てて歩き始める。
「じい……父ちゃんまたね!」
キオが手を振ると、横の兵士が驚いて腰を抜かした。
「そうか、アンタは孫に付き合って、一緒に来ちまったんだな」
「と言う事は……」
「そうだよ。オレもゲーム好きの日本人だ」
「じゃあ、お前さんも変な店で……」
「やっぱりか、オレも中古の『ファンファン』を買ったのさ。どうやら経緯は同じみたいだな。ただ、プレイヤーキャラと出発地点が違った様だが……」
メラは騎士でゴウトは戦士。もしかしたら向こうがゴウトで、私がメラだった可能性もあったのだろうか。年老いた貧相な体も、あの顔まで覆った漆黒の鎧なら隠せたかと思うと、少しやるせない。
「もしやメラ様は、ゴウト様と面識が?」
私たちの会話を見て、兵士が口を挟む。メラが「ちょっとな」と言って手を払う素振りを見せると、兵士は慌てて前を向き直した。
「ま、立ち話もアレだ。国王様の下へ案内しよう」
メラの誘導で歩き始める。私たちはなるべく随伴した兵士と距離を取り、声を小さくして会話を続けた。
「この世界からの脱出方法は? やはりゲームをクリアしないとならんのか?」
「分からない。そもそもアンタが来るまで、オレはイベントも起きず、この町からも出られなかった」
「出られなかった?」
「アンタ主人公なんだろ? ゲームキャラってのは主人公を介さないと、スポットライトすら当たらないもんだ。もしかしたら身動きが取れないのかもな……」
話しているうちに、私たちは扉の前に立っていた。
「勇者ゴウトをお連れした。国王様には話を通してある、扉を開けてくれ」
「了解しました」
扉を守っていた二人の兵士は剣を下ろすと、扉をゆっくりと開いた。
「とにかく、この先に王がいる。さあイベントの始まりだ」
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扉へ進もうとした時、メラが遮る様に言った。
「一つだけ忠告しておく。オレの見た限りじゃ国王はかなりの悪人だ。嫌なイベントが起きるかもしれないぞ」
「でも、他に道がないんじゃろ?」
「それはそうだけど……覚悟はしてくれよ」
扉の奥へ進むと、大きな空間へと出た。まっさきに視界に飛び込んできたのは、一直線に伸びた赤い絨毯と、その上に立つ鎧や剣で武装した騎士たちだった。彼らは王の前を立ちふさがるように、絨毯に沿って奥へずらりと並んでいる。
異様な光景だ。あれでは顔が見えず、客人を迎え入れる姿勢ではない。むしろ迎え撃つ様な、そんな敵意さえ感じられた。
「よく来てくれたゴウト。ここに来たという事は、森を巣食う巨人を見事退治してくれたのだな?」
騎士たちに隠れる様に、隙間を縫って王の声が聞こえてくる。まさかこのまま話を続ける気だろうか? 思わず私はこう尋ねた。
「その前に、失礼ながら王様……顔が見えないのですが……」
「ああ、私は臆病者でな、あまり気にしないでほしい」
私の問いを無視して、王は話を続ける。悪人かどうかは分からないが、人前に姿を晒さないのは不信感しか湧かなかった。少なくとも童話に出てくる様な「人柄の良い王様」では無いのだろう。
「それに、わざわざ申告しなくても、我が兵が戦いを見てきておる。聞けば自慢の大剣以外に、火も使ったそうだな? 見かけによらず知恵の働く男だな」
「火を……まさか戦いを見ていたのか!?」
「なに、国を脅かす怪物退治、それも敵は強大だ。君の強さは信頼にできるが、念のため君が戦いを放棄しないかを監視させてもらった。いざという時は助力も考えてはいたが、杞憂に終わったようで何よりだ」
(馬鹿な。私が吹っ飛ばされたときも、こいつらは黙って見ていたというのか?)
この男は、自分で何を言っているか分かっているのだろうか。人に怪物退治を任せ、それを陰でただ見ていた。任せるのであれば監視など必要ない、あるいは最初からお目付けでも同行させれば良い話だ。なぜこんなに心象の悪くなる話をするのか。
「しかし、本当に単身であの巨人どもを倒すとは見事だ、噂通りの豪傑だな!」
そう言うと、王は豪快に笑う。その無神経さが、より私の怒りと不安を煽った。
「ワシはまどろっこしい話は嫌いでな。怪物を倒してきて、褒美の一つも無いのかね?」
私は痺れを切らして、やや強気に言った。
「無礼者!」
列の先頭に立つ騎士が剣を構えた。応戦出来るように、こちらも背中の大剣を取り出す。
「爺さんよせ!」
「止めろ」
王とメラの声が合わさった。騎士は構えを解き、メラが駆け寄り私の前を遮る。
「メラ?」
「頭を冷やせ、ここで暴れてどうなる?」
メラに剣を向けられると、私は観念して大剣を戻した。
「……落ち着いた所で話を戻そうか。もちろん、忘れていたわけではない。息子の呪いを解く方法だろう?」
てっきり金銭かと思いきや、予想外の答えに私は目を見開いた。
「だが、それを教える前に頼みがある」
「何じゃと、まだ何かやらせようと言うのか?」
「その頼みが呪いと直結してるかもしれなくてな。まあ最後まで聞いてほしい」
「……聞くだけならな」
嫌な感覚である。何かを解決して、そしてまた何かをやらされようとしている。知らず知らずの内にこの男の言いなりになっているようで、私は内心不快感を覚えていた。
「近くの洞窟に、魔法に心を奪われ、この国を狙う男が潜伏している。送り出した使者全員を返り討ちにした危険人物だが、奴なら呪いについても何か知っているかもしれんぞ」
「魔法?」
「読んで字の如く、魔に魅入られし者の法、神にも背く悪魔の力よ。ある者は何もない空間より業火を解き放ち、ある者は人の精神に入り込み、その心を破壊する。手の内は未知数だ」
「馬鹿な。それを聞かされてまた戦えと。そんな危険な仕事をわざわざ引き受けるお人好しだと思うのか?」
「思うね。君が子を想う父親ならな」
それを聞いて、私はハッとなってメラを見た。メラは無言のまま立ち尽くしている。
「確かキオ君と言ったな。最強の生物と言われる竜でも、我が聖騎士団が束でかかれば……」
王が指を鳴らすと、騎士達は一斉に剣を構えた。更に背後の扉が開くと、騎士が次から次へと入ってくる。私は瞬く間に囲まれてしまった。
「我が国の威信にかけて、必ずや息の根を止める事を約束しよう。お望みなら親子共々にな」
いくら自分が超人でも、これだけの人数、ましてや国家を敵に回す事は出来ない。私は歯を食い縛り、王の依頼を引き受けるしかなかった。
しかし、頭では分かっていても体が言う事を聞かない。キオ……いや、学の顔を思い浮べた瞬間、私は大剣を構えていた。メラが慌てて前に立ちはだる。
「ゴウト!」
「……メラ、まずはお前さんからか」
「冷静に考えろ。アンタは今、国に喧嘩を売ろうとしてるんだぞ!」
「『巨剣のゴウト』か、倒せば我が聖騎士団も名が上がるな」
挑発だろうか、王が高らかに笑う。声を聞くたびに、怒りが全身に回る。
「目的を忘れたのか、せっかく物語が動き出したってのに、こんな序盤で全部パーにするのか!?」
「しかし……」
「年寄りは頑固だな……だったら、最初の相手はオレだ」
メラはそう言うと、腰の剣を引き抜いた。
「同胞を殺し、その手で孫と手を繋ぎながら、日本に帰るんだな」
「ぐっ……」
「どうした? 出来ないなら逆に殺すぞ。孫はオレが助けだし、二人で日本に帰ってみせる。その覚悟がオレにはある」
「ワシは、ワシは……」
体からじょじょに力が抜けるのを感じる。
「ワシらは、全員で日本に帰る」
私が剣を下ろすと、王は合図を送り、騎士たちは一斉に剣を納めた。
「頭は冷やしていただけた様だな、洞窟へ行ってくれるな?」
「ああ……しかしな」
私は王を指差した。
「万が一キオを傷つけてみろ、斬るぞ」
「……肝に命じておこう」
私は振り返り、扉を乱暴に開けると、そのまま歩き去った。
「失礼ながら国王様、もしゴウトが暴れてたら……」
付近の騎士がこっそり尋ねると、王はこう答えた。
「相手は人の姿をした怪物だぞ。お前たちは全員死んでいたかもな」
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「ゴウト! 待てよ! 待てってば!」
メラが駆け寄ってくるが、私は無視するように早歩きを続けた。
「メラ、お前さんも共犯だったんじゃな。悪いが信用できん」
「違う! 聞けって! これはゲームにないイベントなんだ! 予想外のことが起きてるんだよ!」
「……どういうことじゃ?」
私は足を止めた。
「この世界に来る前の話だ。オレ、ゲームをやる前に攻略情報というか、ちょっと雑誌であらすじを読んでたんだよ」
「それで?」
「確かに国王は、領土拡大に他人を利用する小悪党ではあるが、少なくとも人質を取るような策士ではなかった。第一最初のイベントで仲間が捕まるとか、セオリーを無視するにも程がある」
「それが……本来のゲームと筋書きが違うということか?」
「そういう事。少なくとも、オレは親切心で孫を世話係に任せた。人質に使うとは聞いてない」
言われてみれば、国王の言動には周囲が驚いていた。側近であるはずのメラに
さえ、手の内を明かしてない様にも受け取れる。
「ただ、王の話で洞窟に行くのはゲームと同じだ。細部が狂っても、本筋には影響はないらしい」
「ふうむ……」
「孫のことは心配ない。竜はこの世界で最強の生き物だ。それとアンタの強さと気性を知っているからこそ、王は孫には手出ししないだろう。丁重に扱うはずだ」
「それでも今は、奴の言いなりになるしかないのか……助言感謝する」
私が歩きだすと、メラが後から付いてきた。
「どうして付いてくるんじゃ? 同じ日本人同士、心配してくれるのはありがたいが……」
「まぁ、それもあるんだけどさ……その……」
メラが気まずそうに手を差し出す。
「実は……オレが仲間なんだ」
私は少し戸惑ったが、手を強く握り返した。
「そうか。今後もよろしく、同胞」
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「いくら何でも狭くない?」
「君の姿を見たら民が怯える。頼むから我慢してくれ」
ファスト城の地下室にて。地下牢には体が入らないので、キオは別室の、できるだけ大きな部屋に入れられた。
「ねぇおじさん、ぼくって捕まったの?」
「うおっ!」
キオの声に、兵が驚く。
「ちょっと、いやスマン。まだ竜が喋るのに慣れてないんだ」
「何だ、おっかしいの!」
キオは翼をバタバタ振って無邪気に笑った。天井から埃や塵が降り注ぎ、兵士はいつ部屋が壊れるか気が気でなかった。
(たまたま使ってない大部屋が残ってたからいいけど……)
兵は改めて学の体を見上げた。
(こんなにデカいと、捕縛しようが無いよな。第一扉なんてないし、暴れられたら止められないぞ)
「ねえおじさん。父さんとはいつ会わせてくれるの?」
「え? ええっと……」
(国王様、「何でもいいから引き止めておけ」って無理だろ!)
兵士は少し固まった後、咳払いして話し始めた。
「……君は病気なんだ。それを治す薬を取りに、父さんは出掛けてるんだよ」
どうにか真顔を作り、口から出任せを言う。
「病気って、この体のこと? 呪いじゃなかったの?」
「えっ?」
「おじさん、もしかしてウソつき?」
「い、いやいや! 違うよ? えっとほら、その呪いを解くための薬を探しにね?」
「呪いって薬で治るものなの? おはらいとか、そういうのじゃないの?」
「お、おはらい?」
それらのやり取りを見た兵士が、王に様子を伝えていた。
「さすがは子持ち、子供の扱いに慣れている。思いの外うまくやっている様だな」
「しかし国王様、相手は竜です。万が一暴れ始めたら……」
「その時は素直に出してやれ。せいぜい巻き添えを食らわないよう、ちゃんと逃げろよ」
国王の返答に、兵士は目の色を変えた。
「それでは……対策が無いとでも!?」
「お前は竜を知らないのか? かつて先人たちが築き上げた『旧世界』を滅ぼした、最強最悪の生物兵器だぞ。私とて、本気で竜を閉じ込められるとは思わんさ」
「でしたら、なぜ!?」
「お前が気にする事ではない」
そう言うと、王は静かに笑った。そして兵士には、国王の自信が一体どこから支えられているものなのか、見当も付かなかった。
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