2章 『王国』 The Tower

 人は力を秘めている。そして時間は人を変化させ、その力に優劣を与え、弱者と強者を生み出した。


 弱者の上に強者あり。強者の陰に弱者あり。弱者は上を目指すべく強者と戦い、身を守るために弱者と群れ、強者は他の強者を倒すために弱者を率いた。


 強者と強者が戦い、勝ち上がる度に弱者を踏み台に昇っていく。やがて強者が一人になったとき、強者は王となり、土台となった弱者は国となった。


 人は力を秘めている。そして時間は人を変化させ、その力に優劣を与え、弱者と強者を生み出した。


■■■■■□□□□□


 竜となった学の背に乗って、私は空を飛んでいた。体が空に野晒しなのに、まるで車の中にいるような安定感がある。本当にゲームの主人公になった気分だ。


「そういや、じいちゃんはこのゲームの話知っている?」


 少し退屈したのか、学が話し掛けてきた。


「ちっとも。学は知っているのか?」

「ぼくもね、説明書を一回読んだぐらいで、くわしくは知らないんだけど……」


 学は咳払いの代わりに、大きくはばたいた。


「戦士はゴウト、竜はキオ。キオはゴウトの子供で、魔物の呪いで竜になっちゃったんだ」

「えっと、ワシがゴウトで、学がキオなんじゃな。この竜が元は人間なのか……」


 改めて学の背中を見る、見るからに硬質な肌はまるで岩のようだ。生物としてはあまりに巨大で、おまけに鋭い爪に火まで吹く。どう見ても人間と共存できるような存在ではない。これが呪いであるならば、キオの心境はいかなるものだろうか。


「それでゴウトは、キオを人間に戻す方法を求めて旅するんだって」

「人間に戻る。確かにその体じゃ、家には帰れないな」

「そういうじいちゃんだって、えーっと……あれだ『銃刀法いはん』で捕まるよ?」

「確かに。しかし、学は難しい言葉を知ってるなあ」


 話しているうちに城下町が見えてくる。学の姿を見られてか、町の出入口と思しき門が急いで閉じられ、門兵たちが弓を構えるのが見えた。


「学……」

「キオ。じいちゃんもここではゴウトだよ」

「分かった……キオ、必ず元に戻してやるからな」


 私は力強く返す。それは半ば、自分を奮い立たせる為の虚勢でもある。


 何事も勢いは大切だ。入念な計画があっても、勢いがなければ行動は起こせない。そんな長年の経験を、ここでも生かそうと思った。


「止まれ!貴様は何者だ!」


 門兵が叫ぶ。私は立ち上がり、大剣をかざして大声で応えた。


「ワシはゴウト! 国王の依頼で魔物退治から戻ってきた!」

「その大剣……分かった! 今門を開く!」


 門兵たちが弓を下ろし、門がゆっくりと開かれる。


「……じいちゃんって、意外にノリやすいんだね」


 キオが小さく笑った。


 門が開き、いざ入ろうとしたその時、キオの姿を見てか、奥にいた別の門兵が槍を構えて出てきた。


「ゴウト様。いくらあなたが偉大な勇者でも、さすがに竜を町に入れるわけには……」

「見た目は竜じゃが、この子はワシの子じゃ。大丈夫、暴れやしないから」

「そうだよ! おとなしくするからさ!」


 キオが喋ると、門兵たちは一斉に驚いた。


「竜が喋った! しかも子供の声だぞ!」

「人の言葉を話す竜など聞いた事がない。第一、竜を連れた人間なぞいるのか!?」


 門兵たちが動揺する。やがて騒ぎを嗅ぎつけてか、奥からは野次馬が集まりつつあった。


「ぼく、まずい事言っちゃった?」


 キオが困った顔でこちらを見た。爬虫類のような顔でも、不思議と表情は伝わるものである。私はとりあえず腕を組み、何かを考えようとした。


「てめえら、何騒いでんだ!」


 どこからか飛んできた声に、門兵たちは黙り、野次馬は雲を散らすように去っていった。


「竜が喋れないとか、田舎者かっつうの。人語を理解する『賢竜』すら知らないのか?」


 奥から現れたのは、全身を黒い鎧で包んだ不気味な騎士であった。顔も漆黒の兜に覆われ表情が分からないが、キオを見ても変わらない乱暴な口調や態度からは、堂々とした強さと自信を感じさせる。声からして若者のようだが、周囲の兵士は明らかに緊張していた。


「メラ様……しかし竜を町に入れるのは、あまりにも危険かと……」

「もしその竜が暴れだしたら、オレが首を切り落としてやる。いいから入れてやれ」

「……了解しました」


 残った兵士たちも武器を下ろす。周囲の視線が突き刺さる中、謎の黒騎士に連れられると、やっと私たちは町の門をくぐる事が出来た。


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「悪いな。この国は最近魔物の襲撃にあったばかりで、少しビビっているのさ」


 黒騎士はさっきとうって変わって、砕けた口調になった。声色も心なしか棘がなくなり、好意的な態度に安堵を覚える。


「よかった。ぼく、首を切られるかと思ったよ」


 キオがそう言うと、黒騎士は少し黙って、こう言った。


「首はさすがに無理だが、目玉ぐらいは潰す。万が一暴れたらの話だがな」


 それを聞いて、キオはすっかり怯えてしまった。


「しかし、どうしてワシらを入れてくれたんじゃ? 竜に乗った老人なんて、どう見ても怪しいじゃろ」

「その老人が、大剣を背負ってなけりゃあな」


 黒騎士はそう言って、私の背負った大剣を見た。


「人呼んで『ヘビーメタル』。ただひたすら大きく、そして重いだけの鉄の塊。そんな物を軽々扱う人間なんて、この世にそうそういないね」


 そう言って黒騎士は私達を見た。


「だから『巨剣のゴウト』、アンタの見た目がジジイで、連れがドラゴンでも、そんなのは些細な問題なのさ」

「ワシって、そんなに有名?」

「ああ……ってアンタ、自分の設定も知らないのか?」

「えっ?」


 私とキオが驚き、その場で立ち止まる。


「……まぁいいさ、まずは王様が先だろ? さっさと怪物退治の報告をしなきゃな」


 そう言って黒騎士は、目の前の城門を指差した。


■■■■■□□□□□


「聖騎士メラ・ランドール。勇者ゴウトを連れ、今戻った!」


 黒騎士が叫ぶと、城門はゆっくりと開いた。


「聖騎士なのに、真っ黒いなんて変なの」


 キオの声にメラが振り返り、歩み寄る。さっきの言葉を思い出してか、キオが怯える。


「悪いが、キミはここまでだ」


 意外にもメラは優しい口調で、キオの頭をなでた。キオは唖然とし、思わず固まった。


「おい、誰かこの竜の面倒を見てやってくれ」


 メラが門兵に指示すると、すぐに違う兵が出てきて、キオの下へ駆け寄る。


「えっと……」

「キオだよ」

「で……では、キオ様はこちらへ」


 兵に連れられ、キオはドスンドスンと足音を立てて歩き始める。


「じい……父ちゃんまたね!」


 キオが手を振ると、横の兵士が驚いて腰を抜かした。


「そうか、アンタは孫に付き合って、一緒に来ちまったんだな」

「と言う事は……」

「そうだよ。オレもゲーム好きの日本人だ」

「じゃあ、お前さんも変な店で……」

「やっぱりか、オレも中古の『ファンファン』を買ったのさ。どうやら経緯は同じみたいだな。ただ、プレイヤーキャラと出発地点が違った様だが……」


 メラは騎士でゴウトは戦士。もしかしたら向こうがゴウトで、私がメラだった可能性もあったのだろうか。年老いた貧相な体も、あの顔まで覆った漆黒の鎧なら隠せたかと思うと、少しやるせない。


「もしやメラ様は、ゴウト様と面識が?」


 私たちの会話を見て、兵士が口を挟む。メラが「ちょっとな」と言って手を払う素振りを見せると、兵士は慌てて前を向き直した。


「ま、立ち話もアレだ。国王様の下へ案内しよう」


 メラの誘導で歩き始める。私たちはなるべく随伴した兵士と距離を取り、声を小さくして会話を続けた。


「この世界からの脱出方法は? やはりゲームをクリアしないとならんのか?」

「分からない。そもそもアンタが来るまで、オレはイベントも起きず、この町からも出られなかった」

「出られなかった?」

「アンタ主人公なんだろ? ゲームキャラってのは主人公を介さないと、スポットライトすら当たらないもんだ。もしかしたら身動きが取れないのかもな……」


 話しているうちに、私たちは扉の前に立っていた。


「勇者ゴウトをお連れした。国王様には話を通してある、扉を開けてくれ」

「了解しました」


 扉を守っていた二人の兵士は剣を下ろすと、扉をゆっくりと開いた。


「とにかく、この先に王がいる。さあイベントの始まりだ」


■■■■■□□□□□


 扉へ進もうとした時、メラが遮る様に言った。


「一つだけ忠告しておく。オレの見た限りじゃ国王はかなりの悪人だ。嫌なイベントが起きるかもしれないぞ」

「でも、他に道がないんじゃろ?」

「それはそうだけど……覚悟はしてくれよ」


 扉の奥へ進むと、大きな空間へと出た。まっさきに視界に飛び込んできたのは、一直線に伸びた赤い絨毯と、その上に立つ鎧や剣で武装した騎士たちだった。彼らは王の前を立ちふさがるように、絨毯に沿って奥へずらりと並んでいる。


 異様な光景だ。あれでは顔が見えず、客人を迎え入れる姿勢ではない。むしろ迎え撃つ様な、そんな敵意さえ感じられた。


「よく来てくれたゴウト。ここに来たという事は、森を巣食う巨人を見事退治してくれたのだな?」


 騎士たちに隠れる様に、隙間を縫って王の声が聞こえてくる。まさかこのまま話を続ける気だろうか? 思わず私はこう尋ねた。


「その前に、失礼ながら王様……顔が見えないのですが……」

「ああ、私は臆病者でな、あまり気にしないでほしい」


 私の問いを無視して、王は話を続ける。悪人かどうかは分からないが、人前に姿を晒さないのは不信感しか湧かなかった。少なくとも童話に出てくる様な「人柄の良い王様」では無いのだろう。


「それに、わざわざ申告しなくても、我が兵が戦いを見てきておる。聞けば自慢の大剣以外に、火も使ったそうだな? 見かけによらず知恵の働く男だな」

「火を……まさか戦いを見ていたのか!?」

「なに、国を脅かす怪物退治、それも敵は強大だ。君の強さは信頼にできるが、念のため君が戦いを放棄しないかを監視させてもらった。いざという時は助力も考えてはいたが、杞憂に終わったようで何よりだ」

(馬鹿な。私が吹っ飛ばされたときも、こいつらは黙って見ていたというのか?)


 この男は、自分で何を言っているか分かっているのだろうか。人に怪物退治を任せ、それを陰でただ見ていた。任せるのであれば監視など必要ない、あるいは最初からお目付けでも同行させれば良い話だ。なぜこんなに心象の悪くなる話をするのか。


「しかし、本当に単身であの巨人どもを倒すとは見事だ、噂通りの豪傑だな!」


 そう言うと、王は豪快に笑う。その無神経さが、より私の怒りと不安を煽った。


「ワシはまどろっこしい話は嫌いでな。怪物を倒してきて、褒美の一つも無いのかね?」


 私は痺れを切らして、やや強気に言った。


「無礼者!」


 列の先頭に立つ騎士が剣を構えた。応戦出来るように、こちらも背中の大剣を取り出す。


「爺さんよせ!」

「止めろ」


 王とメラの声が合わさった。騎士は構えを解き、メラが駆け寄り私の前を遮る。


「メラ?」

「頭を冷やせ、ここで暴れてどうなる?」


 メラに剣を向けられると、私は観念して大剣を戻した。


「……落ち着いた所で話を戻そうか。もちろん、忘れていたわけではない。息子の呪いを解く方法だろう?」


 てっきり金銭かと思いきや、予想外の答えに私は目を見開いた。


「だが、それを教える前に頼みがある」

「何じゃと、まだ何かやらせようと言うのか?」

「その頼みが呪いと直結してるかもしれなくてな。まあ最後まで聞いてほしい」

「……聞くだけならな」


 嫌な感覚である。何かを解決して、そしてまた何かをやらされようとしている。知らず知らずの内にこの男の言いなりになっているようで、私は内心不快感を覚えていた。


「近くの洞窟に、魔法に心を奪われ、この国を狙う男が潜伏している。送り出した使者全員を返り討ちにした危険人物だが、奴なら呪いについても何か知っているかもしれんぞ」

「魔法?」

「読んで字の如く、魔に魅入られし者の法、神にも背く悪魔の力よ。ある者は何もない空間より業火を解き放ち、ある者は人の精神に入り込み、その心を破壊する。手の内は未知数だ」

「馬鹿な。それを聞かされてまた戦えと。そんな危険な仕事をわざわざ引き受けるお人好しだと思うのか?」

「思うね。君が子を想う父親ならな」


 それを聞いて、私はハッとなってメラを見た。メラは無言のまま立ち尽くしている。


「確かキオ君と言ったな。最強の生物と言われる竜でも、我が聖騎士団が束でかかれば……」


 王が指を鳴らすと、騎士達は一斉に剣を構えた。更に背後の扉が開くと、騎士が次から次へと入ってくる。私は瞬く間に囲まれてしまった。


「我が国の威信にかけて、必ずや息の根を止める事を約束しよう。お望みなら親子共々にな」


 いくら自分が超人でも、これだけの人数、ましてや国家を敵に回す事は出来ない。私は歯を食い縛り、王の依頼を引き受けるしかなかった。


 しかし、頭では分かっていても体が言う事を聞かない。キオ……いや、学の顔を思い浮べた瞬間、私は大剣を構えていた。メラが慌てて前に立ちはだる。


「ゴウト!」

「……メラ、まずはお前さんからか」

「冷静に考えろ。アンタは今、国に喧嘩を売ろうとしてるんだぞ!」

「『巨剣のゴウト』か、倒せば我が聖騎士団も名が上がるな」


 挑発だろうか、王が高らかに笑う。声を聞くたびに、怒りが全身に回る。


「目的を忘れたのか、せっかく物語が動き出したってのに、こんな序盤で全部パーにするのか!?」

「しかし……」

「年寄りは頑固だな……だったら、最初の相手はオレだ」


 メラはそう言うと、腰の剣を引き抜いた。


「同胞を殺し、その手で孫と手を繋ぎながら、日本に帰るんだな」

「ぐっ……」

「どうした? 出来ないなら逆に殺すぞ。孫はオレが助けだし、二人で日本に帰ってみせる。その覚悟がオレにはある」

「ワシは、ワシは……」


 体からじょじょに力が抜けるのを感じる。


「ワシらは、全員で日本に帰る」


 私が剣を下ろすと、王は合図を送り、騎士たちは一斉に剣を納めた。


「頭は冷やしていただけた様だな、洞窟へ行ってくれるな?」

「ああ……しかしな」


 私は王を指差した。


「万が一キオを傷つけてみろ、斬るぞ」

「……肝に命じておこう」


 私は振り返り、扉を乱暴に開けると、そのまま歩き去った。


「失礼ながら国王様、もしゴウトが暴れてたら……」


 付近の騎士がこっそり尋ねると、王はこう答えた。


「相手は人の姿をした怪物だぞ。お前たちは全員死んでいたかもな」


■■■■■□□□□□


「ゴウト! 待てよ! 待てってば!」


 メラが駆け寄ってくるが、私は無視するように早歩きを続けた。


「メラ、お前さんも共犯だったんじゃな。悪いが信用できん」

「違う! 聞けって! これはゲームにないイベントなんだ! 予想外のことが起きてるんだよ!」

「……どういうことじゃ?」


 私は足を止めた。


「この世界に来る前の話だ。オレ、ゲームをやる前に攻略情報というか、ちょっと雑誌であらすじを読んでたんだよ」

「それで?」

「確かに国王は、領土拡大に他人を利用する小悪党ではあるが、少なくとも人質を取るような策士ではなかった。第一最初のイベントで仲間が捕まるとか、セオリーを無視するにも程がある」

「それが……本来のゲームと筋書きが違うということか?」

「そういう事。少なくとも、オレは親切心で孫を世話係に任せた。人質に使うとは聞いてない」


 言われてみれば、国王の言動には周囲が驚いていた。側近であるはずのメラに

さえ、手の内を明かしてない様にも受け取れる。


「ただ、王の話で洞窟に行くのはゲームと同じだ。細部が狂っても、本筋には影響はないらしい」

「ふうむ……」

「孫のことは心配ない。竜はこの世界で最強の生き物だ。それとアンタの強さと気性を知っているからこそ、王は孫には手出ししないだろう。丁重に扱うはずだ」

「それでも今は、奴の言いなりになるしかないのか……助言感謝する」


 私が歩きだすと、メラが後から付いてきた。


「どうして付いてくるんじゃ? 同じ日本人同士、心配してくれるのはありがたいが……」

「まぁ、それもあるんだけどさ……その……」


 メラが気まずそうに手を差し出す。


「実は……オレが仲間なんだ」


 私は少し戸惑ったが、手を強く握り返した。


「そうか。今後もよろしく、同胞」


■■■■■□□□□□


「いくら何でも狭くない?」

「君の姿を見たら民が怯える。頼むから我慢してくれ」


 ファスト城の地下室にて。地下牢には体が入らないので、キオは別室の、できるだけ大きな部屋に入れられた。


「ねぇおじさん、ぼくって捕まったの?」

「うおっ!」


 キオの声に、兵が驚く。


「ちょっと、いやスマン。まだ竜が喋るのに慣れてないんだ」

「何だ、おっかしいの!」


 キオは翼をバタバタ振って無邪気に笑った。天井から埃や塵が降り注ぎ、兵士はいつ部屋が壊れるか気が気でなかった。


(たまたま使ってない大部屋が残ってたからいいけど……)


 兵は改めて学の体を見上げた。


(こんなにデカいと、捕縛しようが無いよな。第一扉なんてないし、暴れられたら止められないぞ)

「ねえおじさん。父さんとはいつ会わせてくれるの?」

「え? ええっと……」

(国王様、「何でもいいから引き止めておけ」って無理だろ!)


 兵士は少し固まった後、咳払いして話し始めた。


「……君は病気なんだ。それを治す薬を取りに、父さんは出掛けてるんだよ」


 どうにか真顔を作り、口から出任せを言う。


「病気って、この体のこと? 呪いじゃなかったの?」

「えっ?」

「おじさん、もしかしてウソつき?」

「い、いやいや! 違うよ? えっとほら、その呪いを解くための薬を探しにね?」

「呪いって薬で治るものなの? おはらいとか、そういうのじゃないの?」

「お、おはらい?」


 それらのやり取りを見た兵士が、王に様子を伝えていた。


「さすがは子持ち、子供の扱いに慣れている。思いの外うまくやっている様だな」

「しかし国王様、相手は竜です。万が一暴れ始めたら……」

「その時は素直に出してやれ。せいぜい巻き添えを食らわないよう、ちゃんと逃げろよ」


 国王の返答に、兵士は目の色を変えた。


「それでは……対策が無いとでも!?」

「お前は竜を知らないのか? かつて先人たちが築き上げた『旧世界』を滅ぼした、最強最悪の生物兵器だぞ。私とて、本気で竜を閉じ込められるとは思わんさ」

「でしたら、なぜ!?」

「お前が気にする事ではない」


 そう言うと、王は静かに笑った。そして兵士には、国王の自信が一体どこから支えられているものなのか、見当も付かなかった。

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