常世の言葉
夜の帳。
梅の舞う木の下にて語らう。
夢現、生と死、相容れぬ者の語らい。
だが彼らの語らいなどそう珍しくもない。
今が夜、そこを除けば。
現し世に漂う残留、常世に語るは生者。
「やぁ、円。」
縁の挨拶を返し酒とタバコを渡す。
酒は俺が秘蔵していた日本酒。
縁は酒を開けると御猪口に注ぐ。
乾杯するとキュッと一息に飲む。
「…良い味だ、華やかであるがその実淑やからな味がする。それでいて強かだね。」
「そうだろう、俺の一押しでな名を梅時雨って酒だ。」
俺は少し自慢げに語りタバコを吸う。
空へ漂う紫煙を眺める。
微かに違和感を覚えるがそれがわからず思考を投げた。
「……円」
「どうした?」
「私はそんなに長くは無さそうだ」
「……どういうことだ?」
「いや、長くはないと言ったが恐らく数百年はここに居る。そしてわかってきたんだよ、今年の梅で最後だと。」
俺は言葉を失った。
だがそれもすぐに終わる。
「なんてね、冗談だからそんな顔するなよ。」
俺はほっとし、胸をなで下ろす。
「…そんな意地の悪い冗談辞めてくれ」
「いや何、驚かそうと思ってね」
「なら良かった、本当に」
縁は微笑むとタバコに火をつけた。
「常世現し世に違いあれど語らう事はこんなにも素晴らしいなんてな…」
儚げな微笑み。
ゆらゆら蠢く紫煙。
梅の舞う下。
妖しげな月。
「円明日には桜が咲くだろう。また会えるのを楽しみにしている、幾創世の夜を超えて、綺羅星の如く君を探そう」
「縁が探すのか」
いつもとは違う終わり。
「そうだよ、次こそ君に辿りつこう。」
『好きだよ、円』
縁の言葉が胸を打つ。
しかし返事をする前に幻の如く消えていった。
「言い逃げとはひどい女だ」
言葉とは裏腹に笑っていた。
それから次の年、そこに縁は居なかった。
春近く、恋遠く あるぱか @arupaka-cigarette
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