第2話

部屋の掃除を終え、紅茶を入れひと息つく。

この家には高価そうなティーカップやポットが揃っていて、美帆子が揃えたという様々な種類の紅茶もまだ沢山残っていた。

以前はインスタントのコーヒーしか家では飲んだ事がなかったが、このティーセットで紅茶を飲むだけで優雅な気分になった。


しかしさすがに1人でポットいっぱいの紅茶を飲むと尿意が近くなってしまう。急いでトイレへ向かう。

「あら?」

トイレの電気のスイッチを押したが明かりがつかない。

しかたなく、そのまま用をたしてから納戸へ向かった。


「確かこの中に買い置きがあると言っていたはず…」

愛海は独り言を言いながら辺りを物色していると、奥の方で綺麗な木製の箱を見つけた。

その箱を引っ張り出すと、寝室に置いてある鏡台と同じ木で作られたものだとわかった。


開けると中には、やはり同じ素材の木で出来た子供用の玩具が入っていた。

「かわいい」

愛海は目をキラキラさせてそれを一つずつ取り出すと、1番下にダイアリーと書いてあるノートが3冊あった。

中を開く。とても女性らしい字で書かれてあるそれをしばらく読む。

「これ美帆子さんのだわ…」

愛海は急いでノートを閉じ元の箱の中に戻した。


しかし再びノートを取り出し最初のページを開く。

真剣な表情で次のページをめくる。

ノートから目を離さずに窓のある方へ歩いていき、その下に座り壁に寄りかかって、また次のページをめくった。


気がつくと空が紫色になっていた。カラスが鳴いていて子供たちの声が聞こえてくる。

「じゃあな」

「明日忘れるなよ」

「おう!」

そうしている間にどんどん暗くなっていき、街頭の灯りがともる。



真っ暗闇の中、ドアが開いて賢治の声が聞こえてきた。

「おい!愛海、いないのか?」

返事がないので手探りで電気のスイッチを探し押す。

家の中はしんと静まり返ってある。

廊下の突き当たりの納戸のドアが開いている。


なんであんなところを開けっぱなしにしているのだろうか?と不思議に思いながら向かう。

そのまま閉めればいいのだが、なんとなく気になって電気をつけると中で愛海が横たわっていた。

「おい愛海!大丈夫か⁈」

賢治は慌てて膝まづき愛海の両肩を掴んで少し揺さぶった。

「賢治さん?…あら、私…」愛海は辺りを見回した。

「何があったんだ、こんなところて⁈」

愛海は心配をよそに急に笑い出した。

「あはは、やだ私たら。うっかり寝ちゃったのね」

「なんだよお前、びっくりさせるなよ」

賢治は安心してその場に座り込んだ。すると尻の下に違和感を感じ見るとノートが置いてある。

「ん?なんだこれ」

「あ、それ…」

「なんだ?お前の日記か?こんな所に隠さなくても俺は人の日記なんて勝手に読んだりしないぞ」

「違うのよ…それ美帆子さんのよ」

「なんだって?」

賢治は眉をひそめて日記を開いた。


「ごめんなさい。読むつもりはなかったんだけど…」

愛海は真剣な表情で日記を見ている賢治にたいし罪悪感を感じ細々と言った。


「こんなもの…どこで見つけたたんだ?」

「この箱の中に」

愛海は玩具の入った木箱を差し出した。

「そこの奥の方に。トイレの電気が切れたから電球を探しに入って見つけたのよ。あなた知らなかったの?」

賢治は首を横に振った。それから箱を開けて中から一つ玩具を取り出しじっと見つめた。

そしてそれをすぐに元に戻し日記も一緒に入れ蓋をバタンと閉めた。


「捨てよう」

「え?ちょっと待ってよ」

「なぜ?こんなもの…なんか読んでいたらあいつが側にいるような気がして、ぞっとした」

それを聞いて愛海はくすりと笑って言った。

「やだ、あなたって案外敏感なのね。捨てるなんてもったいないじゃあない。この箱も玩具も職人さんの手作りでしょ。これから私達の子供が産まれた時に使えるわ。私、自分の子供には良いものに囲まれて育てたいのよ。だからこの家に住む事にしたのよ。そうじゃなきゃ、こんな所に住めないわよ。近所の人だって私の事を白い目で見てるのわかっていりのよ。でもそんなこと気にしない。近所のおばさん連中なんかどうせ話なんか合わないんだから。そんな事より、この素敵な家であなたと、あなたの子供と一緒に居られるだけで私は幸せなのよ」


「…わかったよ。けど、日記だけは捨ててほしい」

「ん、わかった」愛海はしっかり賢治の目を見て頷いた。

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