ミラー

第1話

高橋賢治(49)と愛海(32)は３ヶ月ほど前に結婚した。

賢治には前妻の美帆子(42)がいたが、生まれつき心臓の病をかかえていて1年前に他界した。

そういう訳でふたりの間には子供はなかった。

愛海は賢治と同じ会社に働いていた。

美帆子が亡くなる前から２人の仲は始まっていた。

美帆子が死んで２人は当然のように結婚をした。

社内では、妻が死んで1年も経たないうちに結婚した事を快く思わない者たちが、愛海達の事をひそひそと噂話をするので会社に居づらくなり、愛海は退職して専業主婦になる事にした。

ふたりの家は美帆子の親が美帆子達のために建てたものであった。

美帆子の親はちょっとした金持ちであったため、家の中の家具などは立派な物が置いてあった。だから愛海は、かつて美帆子と賢治が住んでいたこの家に住む事に抵抗はなかった。

特に寝室に置いてある美帆子のために両親が特別に作らせたという洋風の鏡台を愛海も気に入っていた。

平日の昼間に家にいる事は短大を出てすぐに就職をした愛海にとっては初めての経験であった。

自分の両親も共働きであったので、専業主婦になる事は憧れもあったのだが、実際毎日家の中だけにいると、なんだか世間から離されてどんどん置いていかれているようなそんな感覚もあった。

しかしまだ当分は働らきに出たくはないし、かといって特に趣味ももっていなかったので、とりあえず家の隅々まで掃除をしようと思い立った。