第14話


 そんなやりとりがあって、結局ライブには行かなかった。まあ、気持ちの問題だ。

 残りの微妙な時間は各クラスの出し物を適当に回って潰し、それからはクラスの片付けに従事した。

 上野と時枝の姿は、見なかったように思う。

 が、ライブが成功したのかどうかは、聞く必要もなく聞こえてきた。

 後夜祭が始まるか始まらないか、そのくらいのところで片付けは終了。後はもう帰るか騒ぐか好きなようにしてよかったのだが、俺はなんとなく屋上に寝転がっていた。

 屋上には、人気のない場所でしっぽり決め込むつもりだったであろうカップルが来たりもしたのだが、フェンスのそばで死んでいる俺を視認した途端なにかを察したらしく、全員そそくさとUターンしていった。ちょっと申し訳ないとは思う。

 いろんなことをぼんやり考えた。

 結局、あいつの持ってた時計は体感時計だったんだろうか、とか。だとしたら、それは誰の時計なんだろうな、とか。親から借りたものなのか、それとも。

 時枝家の人間は愛を知ることでその時計を作れるようになる……んだったっけ。と、なると。

 いつからあの時計を着けていたか、はっきりとは思い出せないが。案外最近のことだったりして。案外、あいつが自分で作った時計だったりして。

 上野への愛を知ったから、作れるようになったとか……

 やめよう。

 ぽつぽつと星の散らばる夜空に、寝転がったまま右手を伸ばす。

 手首に巻いた体感時計の、その文字盤の水色は、薄暗い夜の中ではいまいちはっきりと見ることはできなかった。

 なんだかんだと借り物だから、一応、そこそこ丁重に扱ってきたつもりではある。

 すぐ目の前に近づけて見ても、傷なんかはついていない……新品みたく綺麗なまま、のはず。明るいところで見なきゃわかんないけど。

 それはそれとして、19時10分。携帯のほうで確認してもだいたい同じような時間だった。

 やることないなら帰ればいいのに、ぼーっとしてるうちにこんな時間だ。後夜祭に出る予定もないし、いい加減帰ってしまおうか。

 そうして、体を起こしたときのことだった。


「ほんとすごかったよね。あのくらい弾ければプロでもいけるんじゃない?」

「いや~、もっと言って言って! ……って、言いたいけど、さすがにプロはどうかなー」


「……?」

 完全に気が抜けていた。この声誰だっけ、と、パッとわからないくらいには、想定外の出来事で。

 しばらくの間、間抜けな顔で屋上のドアを見つめることになった。 

 後夜祭の喧騒は、どこか遠くから聞こえてくる。それを除けば屋上は静かだ。

 だから、誰かが階段を上ってくる音ははっきりと聞こえた。

「言いすぎでもないと思うんだけどなー」

「あっはははは……いや、ありがと。褒めてくれてありがとうなんだけど、いまさらちょっと恥ずかしくなってきた」

「え、上野くんでも緊張するの?」

「するよ! してたよ! いや、そりゃ本番中は腹くくるしかなかったけどさ……」

 冗談抜きに飛びあがった。跳ねあがらんばかりに飛び起きた。

(……上野!? 時枝!?)

 え、なんで。

 告白は? え? もうしたのか? いやこれからするのか? 屋上で?

 いくらなんでも間が悪すぎる。

 もはや後夜祭のかすかな喧騒なんて耳には入ってこない。近付いてくる足音に、慌ててあたりを見回すが、当然出入口は一つしかない。

 何をするにしても鉢合わせだ。

 気まずいどころの騒ぎじゃない。

 気まずいどころの騒ぎじゃない!

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