おまけ 私と八千代

2月13日

しゅうくんを好きでいるのは辞めたの」


 学校帰り。友人である八千代は自身の部屋に私を招き二人でカーペットの上に向かい合って座ると、唐突にそう言った。

 あんなにも、ずっと好きだったのに。何が彼女をそういう考えに至らせたのか、私には分からない。


「こんな事、急に言われても困るわよね。でも真央まおには言っておきたかったから」


 八千代は自分勝手ね。その発言で私がどう感じるのか考えもしないで……なんて、八つ当たりもいいところだわ。


「話してくれてありがとう」


 言いたい事を呑み込んでそう言った。もちろん、本当は理由を聞きたい。

 そもそも辞めると決めてすんなりと好きではなくなるなんて芸当、誰にもできないはずよ。仮にそんな事ができたならば、私はこんなにも苦しんでいない。


「聞かないの?」

「聞いて欲しいのかしら」


 意地悪。聞きたいに決まってるのに、でも言わないという事は言いたくないって事じゃないの?だから聞かなかったのに、なんなのよ。


「ふふっ、睨まないで。真央ってば分かりやすいんだから。理由を知りたいくせに、変に気を使って聞かないの」

「八千代! 貴方って人はすぐに私を怒らせるっ」


 いつもそう。八千代は私が言いたい事を言わない時わざと怒らせては本音を聞き出す。今回もそれだと分かっていても、腹が立つのは仕方がない。


「何でも言い合える関係だけが親しいとは言わないけど、真央は遠慮し過ぎよ」

「だって高校で貴方に出会うまでは親しい友人なんていなくて、上辺だけの関係の人ばかりだったんだもの。まだ何処まで踏み込んでいいのか分からないわ」


 素直にそう言ってみると、八千代は何故か嬉しそうに笑う。


「真央と友達になれて良かった」

「わっ、私もよ」


 照れて口ごもり目まで逸らしてしまったけれど、この後もっと口ごもる事になる。



「で本題なんだけれど、私彼氏ができたの」

「……え、か、彼氏?」


 夏山なつやまくんを好きなのは辞めたと言うのが本題では無く、それを伝える為に私を家に呼んだと。急展開過ぎて思考が追いつかず、無遠慮に聞いてしまう。


「だって貴方、夏山くんを好きだったでしょ? なのに彼氏って、急にどうしたのよ」

「実は昨日、一つ上のいずみ先輩に告白されたの。もちろん好きな人がいるって話したけれど、それでも良いからって言われて」


 窓の外に視線を向けながら、そう言う八千代の表情はどこか悲しげで。だったら何故そんな決意をしたのかしら。好きなら足掻けば良い。側から見ている限り、二人は両思いだった。


「もう秀くんを好きでいる事は苦しくて耐えられそうにないから、要は逃げたのよ」


 そう言いながら、私を見て自虐的に笑う。ぁあ、目の前ですれ違う様を見てしまった。


「真央は好きな人、いる?」

「……いないわ」


 ねぇ八千代、私は恋愛よりも友情を取ったのよ。だから明日、夏山くんを呼び出し八千代と貴方は両思いだと教えて告白させるの。ただし勝手にそんな事を言う対価に私は振られるわ。私を振った後に私の友人と付き合うのは気まずいでしょうけど、それは気にしないでもらうから。



「もう、帰るわね」


 2月14日、決戦の日よ。

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僕と三枝さん 永海エラ @nagami_era

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