2月14日 ( 2 )
「あんたって泣くのね」
「……そりゃあね、僕だって人間だから」
誰かの前で泣くなんて、今更ながら恥ずかしい事をしてしまった。
「洗って返すよ。今日はありがとう」
そう言って床に置いていた鞄の中にハンカチを仕舞い立ち上がると、三枝さんも立ち上がる。
「お礼を言われるような事なんてしてないわ。むしろ傷をえぐってごめんなさい。それに私、今から最低な事を言うから」
その割には堂々としており悪びれる様子は全く無い。覚悟して待っていると、三枝さんは一息ついてから口を開く。
「私、あんたが好き」
「……ん?」
聞き間違いか、告白された気がする。えっと、ど、どうすればいいのかが分からない。
「告白してるんだから何とか言いなさいよ! 顔を真っ赤にして黙って突っ立っているだけだなんて、恥ずかしい人!」
そう大きな声で言った三枝さんの顔も真っ赤で、いきなりの展開に頭も気持ちも追いつかない。何も、考えられない。
「いったん、解散しよう!」
久しぶりに大きな声でそう言ってから鞄を掴み走って教室を出る。そう、逃げたのだ。告白なんてされたのは初めてで、突然の出来事に心臓も早鐘のごとく脈打っている。こんなに張り裂けそうな気持ちは彼女を想っているとき以外では無かった事だ。
「はぁっ……はぁっ……!」
校門を出たところで立ち止まり呼吸を整える。それでも苦しくて、苦しくて。だけど置いてきた三枝さんはもっと苦しいのではないかと気が付いた。逆の立場なら告白をしたのに逃げられているのだ、僕なら悲しくなる。
「……はぁっ……くそっ」
今出たばかりの学校へまた走って戻る。威勢のいい三枝さんの事だから怒っているかもしれない。教室へ向かう最中すれ違ってはいないから、きっとまだいるだろう。飛び出して来たため開いたままのドアからそっと中を覗くと。
「えっ」
泣いていた。三枝さんは肩を震わせながら机に突っ伏していて、思わず駆け寄る。てっきり怒っていると思っていたのに、また訳が分からなくなる。
「な、んで……何で戻って、来るのよっ」
三枝さんは僕ではなく窓を見て涙を拭ってからこちらを向いた。人を泣かせるなんて小学生ぶりだろうか、なんてどうでもいい事を考えてみる。
「出て行ってくれてよかったのに。どうせ振られるつもりで言ったのよ」
さっきまでの威勢は何処へやら、泣き止んだ三枝さんの声は凄く小さい。
「初めて告白されたからどう返事をすればいいのかが分からなくて」
なんと言えば正解なのかは分からない。だけど、泣かせたんだ。とりあえず今の気持ちを正直に話すべきだろう。
「ただ今は、正直八千代ちゃんの事で心がいっぱいで、誰かと付き合うとかは考えられない。でも、ありがとう」
そう言うと三枝さんは笑い、何故か僕の心臓はまた苦しくなる。
「こちらこそありがとう。帰るわね」
先程とは逆で、三枝さんが教室を出て行き僕だけが残された。
「はぁー……、暑い」
まだ肌寒い季節だと言うのに、身体の熱は引く事を知らない。
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