第5話
「やめないか、君達」
群衆の暴言を見かねたエマーソンは、彼らを諌めにかかりました。
「そのような態度は、オナガゴキブリとして相応しくない。それではまるで、チャベナーか人間かヨーロッパタヌキブンブクだ」
一方、ウィルソン大統領はそんな群衆には目もくれず、ヨハンセンに問いかけていました。
「ヨハンセンよ、人間にとってはチャベナーも我々も似たようなもの、故に人間は我々に協力しないであろうと、お前はそう言うのだな?」
「は、はい、閣下」
「そしてそれ故に、エマーソンの案を採用すべきではない、と?」
「恐れながら、その通りです」
「では、何か他にこの絶望的な状況を覆すべき代案はあるのか?」
「うっ、そっ、それは……」
ヨハンセンは、言葉に詰まりました。
オナガゴキブリ達の中でただ一尾、エマーソンの提案の問題点に気づいたヨハンセンでしたが、そんなヨハンセンにも他に起死回生の一手は考えつかないほど、この時のオナガゴキブリ達は追い詰められていたのです。
なお、オナガゴキブリ達は他のゴキブリと同じ“匹”という単位で数えられるのを嫌うため、一尾、二尾と数えるのが通例です。
「ヨハンセン、あれはダメだこれもダメだと反対ばかりしていても、何も変わらない」
ようやく群衆を黙らせることに成功したエマーソンは、ヨハンセンの方に向き直ってそう言葉をかけました。
「そしてこのまま変わらず追い詰められ続ければ、我々を待つのは滅びだけだ。たとえ多少危険な賭けであっても、我々は打って出なくてはならないんだ。分かってくれ、ヨハンセン!」
そう訴えるエマーソンのしっぽは、群衆を黙らせるために何度も地面に打ちつけたがために、一部が欠けてしまっていました。
脱皮をすれば元通りになるとはいえ、しっぽの優美さはオナガゴキブリの誇りであり、また、繁殖期にパートナーを獲得し、子孫を残すためには必須の要素です。そのしっぽを傷めてまで自分をかばってくれたエマーソンに反対し続けることを、ヨハンセンは心苦しく感じました。
「……わかったよ、エマーソン」
ついにヨハンセンは折れ、エマーソンの提案は満場一致での可決を見ました。
こうして、オナガゴキブリ史上最大にして、最後の戦いが、幕を開けたのです。
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