第4話
エマーソンの提案に待ったをかけるべく声をあげたそのオナガゴキブリ、名はヨハンセンと言いました。
二つ名は、“かき揚げのヨハンセン”。
これは、かき揚げに入れてしまえば小海老と見分けがつかないと評されるその矮躯にちなんだもので、どちらかというと蔑称と言って差し支えのないものでした。このことからも、ヨハンセンがオナガゴキブリ達の間でどのように見られていたかは察せられることかと思います。
しかしながら、エマーソンの見方は、他のオナガゴキブリ達とは違っていました。彼は、知っていたのです。ヨハンセンがその小さな体に、エマーソン自身に勝るとも劣らぬ高い知性を秘めているということを。
そして心中では、そんなヨハンセンのことを、密かにライバル視さえしていたのです。
「今、エマーソンが大事な話をしているところなんだぞ!邪魔をするな、“かき揚げのヨハンセン”」
「そうだそうだ、かき揚げはかき揚げらしくきつねうどんに入ってろ」
当のエマーソンがヨハンセンに一目置いているとはつゆ知らず、周囲のオナガゴキブリ達は次々と野次を飛ばしました。
「静かに」
そんな彼らを、ウィルソン大統領が再び、一言で黙らせます。そして、ヨハンセンの方へと向き直りました。
「何か異論があるのか、ヨハンセンよ」
ヨハンセンは、自分へと向けられたゴキブリオーラの圧力(略してゴリラ圧)に縮み上がりました。どのくらい縮み上がったかというと、安いかき揚げにだってそんなに小さな海老は入っていないだろうというくらいです。あまりの高ゴリラ圧に、思わず『やっぱり何でもありません』と答えそうになりましたが、しかしすんでのところで思い留まりました。
この案が採用されてしまえば、後々、取り返しのつかないことになる。
ヨハンセンには、そんな気がしてならなかったのです。
ここが正念場だ。
ヨハンセンは覚悟を決め、巻きかけていたしっぽもピンと伸ばし直して、ウィルソン大統領に向けて言葉を発しました。
「閣下、恐れながら申し上げます。はたして、人間がこちらの提案に乗るでしょうか。人間からしてみれば、我々もチャベナーと大差無い存在なのでは……」
ヨハンセンのこの発言に、周囲のオナガゴキブリ達は激昂しました。
「我々がチャベナーと大差無いだと?!寝言も休み休み言え!」
「そうだそうだ、馬鹿は寝て言え!この優美なしっぽを見ろ。チャベナーのどこにこんな美しいしっぽがある?これを見てどうして大差無いなどという世迷い言が口から出るのだ、このかき揚げめ!」
オナガゴキブリ達が一斉に唱和します。
「「「このかき揚げめ!」」」
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