第2話

 オナガゴキブリ最後の1コロニーが住処としている食堂『やおい軒』では、種の存続をかけた作戦会議が開かれました。


「とにもかくにも、チャベナーどもの攻勢を食い止めないことには、我々の存続は風前の灯火だ」

 チャベナーというのは、チャバネゴキブリを憎む者達が好んで使う蔑称です。なお、この呼び名は現在では差別用語として使用が禁じられ…………あっ、しまった!



 <お断り>

 本作品には、チャバネゴキブリへの差別的表現と受け取られかねない表現が使用されている場合がありますが、作品の書かれた当時の情事を考慮し、できる限り原文の通りにしてあります。チャバネゴキブリへの差別的意図が無いことをご理解くださいますようお願い申し上げます。



 ……ふう、危ない危ない。

作品冒頭に『お断り』を入れておくのを、うっかり忘れていました。もう少しで『ゴキブリとオオクワガタの平等な扱いを求める連絡会議 ~どっちも黒光りする昆虫じゃないか~』(通称ゴ平連)あたりにチャバネゴキブリ差別主義者(通称チャ別主義者)として通報されるところでした。

 そんなことになっていたら、今頃はAmaz○nの無駄に大きいダンボール箱いっぱいに詰められたゴキブリがカクヨム運営へ送りつけられ、私のアカウントは怒った運営によって凍結の憂き目にあうところでした。

 上の『お断り』に書いた通り、私にはチャバネゴキブリへの差別的意図だなんてそんな人道に反するような意図はまったく無いので、これを読んでいる良い子の皆さんは、絶対にゴ平連に通報したりしないでくださいね。

 約束ですよ?


 さて、話が逸れましたが、オナガゴキブリ達の作戦会議では、次々と対チャバネゴキブリの作戦案が提示されました。

「ハンバーガー店に奴らを誘き寄せ、集まってきたら、ポテトを揚げている油の中に落とそう」

「人間達が闇鍋をしている部屋に誘き寄せて、鍋の中に奴らを……」

「野島部長が席を立った隙に、部長の熱々のブラックコーヒーの中に……」


 バン!と床にしっぽを打ちつける音が響きわたりました。

 オナガゴキブリ達の中でも、特に優秀な若手として一目置かれている軍師、エマーソンです。彼がしっぽを打ちつける様は、あたかもイセエビの如き力強さに溢れ、その意気に呑まれた他のオナガゴキブリ達は、いっせいに静まりかえりました。


「皆、本当にそんな作戦でこの状況がどうにかなると思っているのか?!」

 エマーソンは、沈黙する一同を見回して、そう言い放ちました。

「どれもこれも、過去に試したことのある作戦ばかりではないか。その結果がどうだったか、誰も覚えていないのか?我々の側には必ず犠牲が出るにも関わらず、殺せるのはせいぜい一度に5匹から10匹程度のチャベナーだけだ。そんなことを何度繰り返したところで焼け石に水だと、どうして分からない。奴らは1匹見たら100匹、10匹見たなら1000匹はいるんだぞ?つまり我々が10匹見つけてハンバーガー屋の油へ落としたところで、他にまだ990匹もいるということだ」


 オナガゴキブリ達は、ざわつき始めました。

「なんてことだ!じゃあ奴らを1000匹殺さないと!」

「いや待て、奴らを1000匹見つけて殺せたなら、その時奴らは100000匹いるということになるんじゃないのか?!」

「じゃあ100000匹殺さないと!」

「待て待て、その場合は10000000匹いるということに……」

「どうしよう、エマーソン!奴らがどんどん増えていくよ!」


 エマーソンは再び、床をバン!としっぽで打ちつけました。その雄々しさはまるでタラバガニのようだと、オナガゴキブリ達は感銘を受けました。よくよく考えたならば、タラバガニにしっぽは無いのですが、そのことに気づく者は誰もいませんでした。

「そうだ、奴らはどんどん増えていく。一説によれば、チャベナーどもの数は、既にこの宇宙に存在する原子の数をも上回っているという話だ」

 そんなことまで知っているなんて、さすがエマーソンは博識だと、オナガゴキブリ達は感嘆しました。


「そんな奴らを相手にするのだ。我々とて手段を選んではいられない。ポテトを揚げている油に落とすとか、熱々のコーヒーに落とすとか、いつまでもそんな生ぬるいことをやっているわけにはいかないんだ!」

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