第1話

 人間がオナガゴキブリの姿を目にした時、真っ先に注意を引かれたのは、きっとそのしっぽであったことでしょう。オナガゴキブリには、その名の通り、まるでクルマエビのような、長く、猛々しく、立派なしっぽがあったのです。


 しかしながら、実のところ、彼らの最も大きな特徴は、その長いしっぽではなく、頭の方にありました。

 なんと驚くなかれ、オナガゴキブリの頭部には、ヘラクレスオオカブトのような立派な角が生えていたのです。

 ……というのは嘘です。


 オナガゴキブリを、どこの馬の骨とも知れないその他大勢のゴキブリ達から際立たせている特徴は、実際には頭の外側ではなく内側にこそありました。

 彼らは、人間に勝るとも劣らない高い知能を有していたのです。


 しかし、そんなオナガゴキブリ達も今や絶滅の危機。激増するチャバネゴキブリ達に住処を次々と奪われ、多くの者達が寒空の下で死んでいき、わずか1コロニーを残すのみとなってしまいました。


 なにしろ彼らは、長いしっぽが邪魔で、飛ぶことも、速く走ることもできなかったのです。また、高らかに上げた長いしっぽを振って行う求愛のダンスが優美でなくては異性からパートナーとして認められないという性質のため、繁殖の効率が低くく、その点も他種のゴキブリとの勢力争いでは不利に働きました。


 人間に匹敵する高い知能も、道具を作ることも使うこともできない貧弱な手しか持たない彼らにとっては、宝の持ち腐れになっている場合がほとんどでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る