スシキングの功績

土砂降り

スシキングの功績

 あるところにジョナサン・アランテス・ド・スシキングというものがいた。スシキングはありとあらゆる寿司を極めた寿司界の王様である。名前の通りだ。

 彼の握る寿司に、王族や有名人、政界の大物に至るまで世界中の誰もが憧れた。類い希な目利きの能力で最高の食材を選び出し、無駄一つない包丁さばきで魚をおろす。そして天が与えたとしか思えない握りの技術は、史上最高の寿司職人としての名前を世界中に轟かした。『彼の寿司を食べた者は天に昇る気持ちを味わえる』とは、とある著名な美食家が残した言葉だ。

 いつしか人々はこう噂するようになった。もはやスシキングに握れない寿司はない、と。

 そんな彼のもとにある客が訪れた。名前をサルマンといい、あまりに偏屈でしみったれなじじいとして有名であった。

「お前に握れない寿司はないそうだな」

「腕には自信がございますので。どんなものでも握って差し上げましょう」

「そうか。お前の寿司を食べた者は天にも昇るそうだな。ではどうだろう、この私を天に昇らせてはくれないか?」

 サルマンは意地悪く笑った。稀にこうして難題を押しつけてくる客はいる。だがスシキングは断ったことも、そしてその客を満足させられなかったことも一度としてない。提案を受け入れ、スシキングはさっそく自分が握れる最高の寿司を彼に出した。最も得意な鮪の握りである。サルマンはそれを口にした。

「んん、確かにうまい。だが天に昇るほどではないな。こんなものでは満足できん」

 スシキングは次に鯛の握りを、その次には鯖の握りを出した。

「この程度の寿司で私を満足させられるものか」

 どの寿司を握ってもサルマンは満足しなかった。スシキングはついに困り果てた。そんな時、ふと下腹部に違和感が訪れ、思わず屁をこいた。そして何を思ったかスシキングは屁を握るとそれをサルマンの前に出した。屁を嗅いだサルマンはひっくり返って天に昇っていった。

 にぎりっぺ誕生の逸話である。

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