第3話

 アカデミーから出発したD班は、広場に出るとそこには人だかりが集まっていた。盗賊共が、広場に置かれている商品を根こそぎ回収しているのだ。随分と大胆な盗賊達だな。よほど切羽詰まっているのかね。


「そこまでですわ! 武器を捨てて大人しく投降しなさい! さもなくば、容赦は致しませんわよ!」


 盗賊連中はその言葉で、目線をこちらに向けたが、相手が子供だとわかるとすぐに目を逸らした。完全にバカにされてるな、これは。


「きぃ~~~~~~~~~~! 許しませんわよ! この私を無下にするとは! いきますわよ、皆さん!」


 そういって、銃剣を構えるエクレア。私も同時に剣を引き抜いた。銃も持ち歩いてはいるが、民衆に当たる可能性がある。剣での近接戦闘の方がいいだろう。


 ルシアは杖を構えて、詠唱を開始。ケリーは槍を構えて飛び出していった。アレクは私と同じ、剣だ。それぞれ、エクレアの掛け声と共に、飛び出していった。


 盗賊連中は焦っておらず、冷静に食材や壺などの商品をこちらに向かって投げつけて来た。それを斬りつける。


 その後、数名が荷物を抱えたまま、逃走。残りがナイフやシミターと構えて交戦する模様。さすがに、その辺は手慣れている。足止めと奪取で役割分担されているようだ。


 逃がすわけには行かないが。さあ、どうする?


 私はエクレアを見た。……が、あのアマは完全に怒り心頭のようで、逃げ出した盗賊達のことなんて、見えていないようだった。


 バカが……周囲にもっと気を配れ、それでも班長か。


「班長! 商品を奪取した連中が先に逃げ出している! どうする!」

「な、なんですって!? お、追いなさい!」


 誰が行くんだよ。ったく、きちんと指示をしろ!


「私とケリーで追う! 残りは、残敵の掃討を頼む!」

「了解!」


「な、何を勝手な……」

「議論している暇はない! 行くぞ!」

「オッケー、俺を選んでくれてありがとー! サリスちゃん♪」


「単に貴様が一番素早いからだ。他に他意はない。後、ちゃんはやめろ」

「ったく、つれねえなあ。サリスちゃんは。けど、そんな所も可愛いんだよね~!」

「ちゃんはやめろと言っている!」


 ケリーの奴は聞く耳を持たず、私と並行して走り続けている。くそがっ!


 こんな若造に、ちゃん呼ばわりとは……おっと、いかん。同い年だったな。つい、生前の年齢を思い浮かべてしまう。しかも、私は本来男だというのに。


 いや、本来もクソもないのか。まったく、迷惑な話だ!


 そうこう考えている内に、追いついてきた。相手は大量の荷物を抱えたまま走っている。訓練を受けている私たちは普通の人間と脚力が違う。


 魔力で高める事もできるしな。盗賊連中に追いつくのは、当然といえた。

 相手はちらちらとこちらを見るようになった。さすがに焦って来たか。

 追いつくのは時間の問題。どこかで戦闘になる。間違いない。


 奴らは町の角を曲がっていき、それを追いかけていくと。

 鋭い突きが、そこから飛び出して来た。それを紙一重で回避する私。


「ちぃっ!」


 舌打ちしながら、相手はこちらに突きを繰り出す。私はそれをどうにか、回避していく。


「サリスちゃん!」

 ケリーが加勢に入ったが、私はそれを止めた。


「ここはいい! もう一人を追ってくれ!」

「けど……」


「いいから、行けっ!」

「わかったよ!」


 そういって、ケリーは走り出した。相手はシミターに舌を這わせた。


「へへ、いいのかよ。嬢ちゃん。お前さん一人で、俺の相手が務まるかなぁ?」

「喚くな、犬っころ。八つ裂きにするぞ」


「お前さんの服をびりっびりにして、ひん剥いてやるよ!」

「!」


 相手はシミターで切りかかってきた。私は剣で受け止めようとするが、相手は曲刀だ。滑り落ちてくるかもしれない。


 ギィイイイン!


 そして、その予感は的中した。シミターを軽く受け止めると、一気に滑り落ちて来たのだ。想像していただけに、反応は早かった。すぐさま、踏み込んでバックステップする。


「ほぉ、やるねぇ。この油まみれのシミターを見抜いたか」


 油……なるほどな。それで、滑りやすくしているわけか。


「だがなぁ、小娘。油ってのはよぉ、こういう使い方も出来るんだよ!」


 そういって、シミターに火をつける男。


「名付けて火炎剣! 喰らえ!」


 くっ! 相手の攻撃を回避するものの、火花が飛び散って私の体に当たる。熱い。


「ほらほらぁ、どうしたぁ!」


 相手の剣は滑って受け止められない。火のせいで回避がしづらい。

 ここは、距離を取るべきだろう。


 しかし、相手はそうはさせてくれなかった。当然か。このっ……。

 さすがに、実戦。相手の方が場数を踏んでいる。いくら才能があるとはいえ、お稽古ばかりの自分と毎日が実戦の盗賊連中では、潜っている修羅場が違うのだ。


「くははは、どうした! 手も足もでまい!」

「くふっ……」


「あん?」


「くふっ、くははははっ! あははははっ! アーッハッハハハッ!」


「な、なんだ。こいつ……!」


「なぁ~んて、な?」


 瞬間、私は飛んだ。文字通り、飛行した。相手と対峙したまま後ろに向かって。


「なぁっ!?」


 これには、相手も驚いたようだ。阿呆が。どうして、わざわざ相手の土俵で戦わなくては行けない。剣をしまった私は、銃を取り出す。


「貴様っ! 卑怯だぞっ!」


 卑怯? くははははっ。盗賊風情に卑怯と言われるとはっ! 滑稽! 滑稽じゃないかっ! そんなものは、一つ前の人生で置いてきた!


 日本人は馬鹿正直で、素直で、糞真面目で……実直! クソ食らえだ! そんな感情は私にはもう、ないっ! 訳のわからん神を語るクズといい、女にされ、こんな世界で第二の人生を生きるハメになった私に、慈悲などあろうものかっ!


 銃口を盗賊に向け、標準を合わせる。ニタァ……と、笑みを浮かべているのが、自分でもよくわかった。くくく、なんて楽しいのだろう。人を殺すゲームは。


 そう、これはゲーム。せっかくの二回目だ。好き勝手させて貰おうじゃないか。


「死・ねっ!」


「ま、まて! 私は──っ!」


 銃口から、魔力を含んだ弾が発射された。相手は、大きな口を開けたまま動くことすらままならず、胴体をぶち抜かれて息絶えた。


「おー、おー。大きな穴が開いたなぁ。さて、と。荷物を回収して、広場に戻りますか」


 楽しい、楽しい、殺し合い~ってね。


 広場に戻った私に伝えられた言葉は、今回の盗賊狩りは実技試験の一貫で、盗賊連中は試験管だったという話。


 生け捕りにしろというのは、そういうことだったか。

 私は盗賊の一人を撃ち殺したことを報告。試験官たちに衝撃が走ったのだった。


 何故なら、盗賊を担当した試験官達は、どれも一流の魔導兵。アカデミーの生徒たちが束になっても勝てるような相手ではないのだ。


 それを、生け捕りどころか、殺してしまった。そんな報告が来るとは思っていなかったのだろう。


 試験官の存在を事前に伝えられていたわけではない為、私のしたことに対する処罰は謹慎一ヶ月という軽いものだった。


 これは、試験に対する試験官達の甘さを考えさせられる一面であり、また、この日はアカデミー内で悪夢の14日と名付けられることとなった。

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