第7話

 アルストス帝国軍び傭兵団は焼け野原になった街区を前進してた時、突然前方に

 雷光が落ちた。

 稲光の目映さに眼を焼かれ、進軍が一時停滞した。

「いったい・・何が起こったんだ!?」

 正規軍兵士が口々で叫び始める。

 手の攻撃魔術を受けたのではないかと、判断した指揮官らは補助魔術を唱えたが、しかし、二度目の攻撃はなかった。


 帝国軍正規軍及び傭兵団は再び隊列を組んで前進した。

 先頭を進んでいた傭兵団所属の大隊が落ちた場所まで進んだ時――――

 鼓膜を無気味な鳴動が震わせた。

 傭兵大隊がそれがだと分かったのは、しばらくしてからだった。

 だが、これほど怨嗟と赫怒に彩られた咆哮を耳にしたのは、全員が初めて

 だった。

 傭兵らは最初地獄の底で蠢く死霊の雄叫びかと思ったほどだった。

「おいおい・・・『召喚獣』までこんな処に配属されているのかよっ!?」

 傭兵の1人が呻き声を上げた。

「まったく、勘弁してほしいぜ・・・俺らは『戦狼』のおかけで苦労しているというのに・・」

 呻き声をあげた傭兵の隣にいた、煙草を咥えている傭兵が呻く。


『戦狼』―――その仇名付きの傭兵は、戦場にいる正規軍や傭兵に取っては死神と同じ意味を持つ。

 戦場で、『戦狼』と交戦した何千という軍人や傭兵が、今まで仲間や戦友に

 惜しまれながら埋葬されたことだろう。

『戦狼』は、雇われた陣営側に有利な戦況をつくるためには、どんな厳重な警備で

 固める国家元首や人徳がある傭兵団団長、そして、神の僕である司祭であって

 もだ。

 一体誰が最初にそう呼んだのか、そしてどんな理由で付けられたのか

 もわからない。

 戦場で、『戦狼』と交戦すれば未来はない。


 そして傭兵大隊の眼の前に、と全身を闘気を纏い、両眼を爛々と

 銀光を発した者が現れた。

 その者の瞳は、闇よりも深い闇の奥底から、凄まじい雄叫びを発していた。

 数多の激戦場を這いずり、修羅場を潜りぬけてきた傭兵大隊は、その刹那誰も

 彼も恐怖という悪寒を感じた。



 気づいた時には、誰も彼もが疾風となって、肉薄しようとしているその者に

 銃口を向けていた。

 そして、全ての重火器類が吠えたてた。

 だが、

 逆にその者が手に持っていた自動式拳銃で、眉間に第三の目を開けられて

 死体と変えられていく。

 怒号と絶叫が飛び交うが、誰もその者の進行を止める事は出来ない。



 その者は、銃を持っていない手を前にゆっくりと出した。

 ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がらせ、空間が陽炎のように揺れて

 弾けさせる。

 そのぶれるような残像が、一つの物質―――――

 銃器を結像させていく。

 その光景を見た傭兵隊の大隊長が愕然とした声で呟く。

鹿!? !?

 通信兵っ、  通信兵っ、至急司令部に繋げっ!!」

 たった1人の正体不明の者による攻撃で、みるまに死傷者が続出した。

「衛生兵っ、衛生兵っ!!」

 あちらこちらで衛生兵を呼ぶ声がする

 彼等も応戦はしているのたが、疾風となって肉薄する敵に、

 その動きは尋常ではない。

 あまりの速さは、まさしく血に飢えた獣の動きだった。



 それでも傭兵隊は攻撃をやめなかった。

 重火器の引き金を絞っている傭兵に向けて、その者は容赦なく二丁の自動式

拳銃の引き金を絞り、死の返礼をする。

 それはもう狂気の塊だった。


 自動小銃の引き金を絞っているある傭兵は銃弾を撃ち尽くし

「畜生っ もっと弾もってこいっ!!」

 と叫んでいた。

 弾薬手が彼の所に弾薬を運んでいこうとしたが、すぐ眼の前に両眼を爛々と

 銀光を発した者が肉薄しながら、弾薬手の両足の膝、両腕の膝を撃ち抜いた。

 絶叫をあげて地面に座り込む弾薬手に、腹、胸、喉、額と順番に

 撃ち抜いていく。

 その狂気を孕んだ光景に、その場にいる傭兵が震え上がった。




 ――――どれだけ気を失っていたのだろうか。

 ラインヴァルトは、曇天の戦場の空を見上げていた。

 両手には自動拳銃を握り、血の臭いと硝煙が全身を包み込んでいた。

「(ここは・・・?、何処だ?、俺は何で独りきりで――――)」

 気を失う前に、何かとてつもない不快で不気味で恐ろしい者を見たような

 気がしていた。

 だが、それが何なのか思い出せない。

 それと、別に曇天の空を観たいために見上げてはいない。

 だだ、見たくないから、逃避するように曇天の空を見上げている。

「(――――――――)」

 地面をつたって手を塗らす、この粘っこい液体が何であるかは知っていた。

 ラインヴァルトは下を見た。眼に飛び込んできたのは、殺戮の跡だった。




 そこには、無数の銃弾の薬莢、血と肉塊と汚物の海――――――――

 一体何人が犠牲になったのか、飛び散った傭兵や正規軍兵士の形も残っていない残骸を入れると、予想も出来ない。

「―――――げえぇっ!!」

 内蔵ごと身体が裏返りかねない勢いで、ラインヴァルトは吐瀉物を吐き

 散らした。

 頭の中で無数の思考が乱反射する。

 最悪な気分だった。

 血臭に反吐の臭いが混じる



  「畜生・・・これは・・・俺が・・!!」

 そして、思い出した。

 思い出したくもなかったが思い出してしまった。

「俺は・・・・・」

 呻くように呟く。




 囲十メートルには、首や手足が血だまり転がっている。

 自分の身体を見ると、怪我を負っていたはずなのに傷が見当たらない。

 動くのもやっとのはずの瀕死だったはずなのに―――――。

 ラインヴァルトは、その事を疑問に思う事も、惚けることもしなかった。

『特殊能力者』となったのであれば、一刻も早く、それなりの手を打たなくてはならないと判断したからだ。

 体を翻してその場を早足に立ち去っていくラインヴァルトは、この時、何か

 を感じていた。

 ?

その疑問が解けるのは、もう少し先である。






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異世界の戦場にて 大介丸 @Bernard

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