第5話
しかし、戦場怪談や都市伝説類で登場する人外の者は、気前よく何の代価もなしに力を授ける様な事はない。
ラインヴァルトが、幾つか聞いたことのある話の内容でもそうだった。
だが、『サトゥルヌス』という人外が登場する戦場怪談などからは、具体的に
何を捧げなければならないのかは囁かれてはいない。
ラインヴァルトが聞いた噂話では、授かった力で『特殊能力者』として
覚醒すれば、残りの人生は 8大陸各地域にいる全ての冒険者を管理している
『連合警備隊冒険者管理局』組織の一部署、『連合警備隊特殊能力者管理保安部』の下、規則管理され大幅な活動自由規制をされてしまうという内容だ。
だが、その様な部署は世間には公にはされてはおらず、どのような活動しているのかも不明である・・・・。
もちろんラインヴァルトもその様な部署自体聞いた事もない。
初めて聞いた時も、たんなる怪談類の類だと思っていた。
―――この状況になるまでは。
『汝は―――聖なる血にまみれ、無限に続く戦場に幾千幾万の屍を築き固め、
勝利の旗をひらめかせる覚悟はあるか?』
再び美声で語りかけてきた。
一瞬、脳裏に妻の貌と息子の貌が過ぎった。
眼の前にいる者は紛れもなく悪魔の類に違いない。
だが、妻と息子の為にも生き残る事ができるのであれば――――自ずと返答は
決まる。
「・・・・今の俺には・・・悪魔だろうが天使だろうが・・・・関係が・・・ねぇっ!! その力とやらを・・俺に寄越せっ!!」
瀕死の人間が、人外の者に対して偉そうに言えるのは、少なくともラインヴァルトぐらいな者だろう。
『ならば、汝に闘う武器を与えよう―――汝が力尽き永遠の眠る時には、
絶えざる光で照らそう――――これにて契約終了なり』
その言葉が終わると同時に、ラインヴァルトは右頬の耳から顎にかけて鋭い刃で突き刺されたような激痛を感じた。
『それは契約の証なり――――行け闘いに』
曇天の空から、一筋の雷光が瀕死のラインヴァルトに向かって落ち衝突する。
轟く雷鳴、辺り一帯が発光した。
雷光に打たれたラインヴァルトの身体が光に包まれた。
それは痛いというレベルではなかった。
まるで皮を剥がされているような・・・その激痛に比例して、何処か遠くの方で
鼓動が聞こえてくる。
その音は止まらない。
頭の裏側に、何か別の心臓が出来た感触。
「(なんだ・・・これは・・・?――――ぁ――――)」
ギリ・・・ギリ・・と少しずつ骨が削られていく。
しかし、それと同時に別の心臓が活性化していのを感じる。
痛みはすでに限界を超え、この場でのたうち廻りたいほど追い詰められている
状況だ。
その一瞬、耳元で何かか囁いた。
「(――――――――――――)」
だが、ラインヴァルトは、それが何を言っているのかわからなかった。
不明様なノイズめいた囁きを聞き取れる余裕がない。
全身の痛みはなお激しくなり、ブレーカーが落とされたかの様に視界が
遮断された。
その暗闇の中で音が響く。
ガツガツと身体を突き破りかねない鼓動の音が、ノイズと合わさり、言語めいたものと変わっていく。
何処かの国の鎮魂歌かそれとも革命歌か―――――。
内側から溢れ出す意味不明な言語の羅列がラインヴァルトの脳を駆けめぐり、
正気を保ってはいられない状況だ。
痛みの激流に抗うように、必死になってすがっていた理性を―――――
「(―――――ぁぁあっ!!!)」
放してしまった。
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