10-8 地獄絵
ここは新しく建てた奥座敷。為信は子らに囲まれ、楽しそうに語らう。……あくまで“楽しそう” にだ。
一昨年生まれた平太郎(信建)と、昨年の冬に生まれた総五郎(信堅)。なんとも愛くるしい限りだが、……心の底より楽しめぬ。
隣には正室の徳姫が座す。深いところでどう思っているか知らぬが……。もはや覚悟を決め、津軽家の母となったらしい。為信は徳姫に問う。
“お前は、幸せか”
“はい。殿の傍にいることができ、幸せでございます”
万遍の笑みで返してくる。そんな彼女の腹を見ると……こんもりと盛り上がっている。徳姫はこのように言った。
“男が二人続きましたので、今度は女がよろしいですね”
侍女らも共に微笑む。
……これが、目指してきた平和なのか。
影には、地獄で漂う亡霊が見える。
……とある春のうららかな日。為信は家来を連れ出し、城下にある長勝寺へと向かった。為信は命じた。
“各々、気が向くままに地獄を描け”
和尚は、硯と墨や半紙などを配る。黒と白の世界、どのように描いてもいい。
一人目は、なんともありきたりな絵を描いた。鬼が金棒を持ち、罪人たちを懲らしめようとしている。
二人目は、いくばくかは絵心があるようで、針の山や灼熱の様をありありと描いていた。……ただし、心には響かない。
三人目はというと……閻魔大王が大きく、小さい無数の蟻のような人間がひれ伏している様だった。このようなとらえ方もあろう。
為信も自ら筆を取り、己の思う地獄を描き出す。
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