9-5 死中へ
為信は悩ましい。
まず初めに“防風”から手掛けたが、一向に進まぬ。松や杉を植えたのはいいものの、強い海風に煽られて失敗。次に藁などで周りを囲い、寒さから守ってみたが、それでも枯れた。土台が砂地なので、根付きにくいのだ。ならば……と思い、山の土ごと持ってきて、その上に植えさせた。すると……今度は薪に使うなどと申し、領民が勝手に切り取っていくのだ。……警護はいるがそれすら避けて、まるでイタチごっこ。
海沿いに植林が進めば、平野で採れる作物は増える。領民は目前の利益ばかり優先し、遠い先のことを考えない。どうしたものか。
“治水”はというと、まったくだめだ。滝本が一向に頷かぬ。……従わせるためには、“津軽郡代”を名乗るのもいいかもと思い始めた。郡代の地位を使って、命令を出す。そこに……新たな家を興すなどという必要もない。なぜなら、大浦の当主は為信ただ一人なのだから。
あちこち領内を駆けずり回る日々。……今年は不作だろうか。実りが少ない。民が飢えるのを防がねば……と考え込む。
……城に帰ると、門前に一人の侍女が待ち構えていた。今日の夜、戌姫の部屋に行ってほしいという。
珍しいことも起きるものだ。義弟が死んでからというもの、戌姫は私を避ける。私もどう接すればいいかわからない。
葬式の場で、滝本が放った言葉は忘れられない。
“あなたの企みでしょう”
私が殺したと言ったのと同じ。……殺してはないが、否定もできない。一時は殺さなくても済むのではないかとも考えたが、避けては通れぬ道だったのかもしれぬ。
私は戌姫にはっきり“違う”と言えなかった。彼女は……見抜いたか。今となっては分からない。
……夕餉は簡素な麦飯で終らせる。きたる飢饉に備え、贅沢はできぬ。
為信は一息つく。そして、戌姫の部屋へ向かった。
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