9-4 滝本の策

逢瀬を重ねました。豊前屋を訪ねたその帰り、私は伝也さんの小さなお屋敷に入ります。


 花が咲いたと思えば緑は青々と茂り、黄色い葉がひらりと落ちていきます。……伝也さんは、私の心の隙間を埋めてくださいました。長い時間をかけて、傷を癒してくれます。


 夫とはかつての様に、何も話さなくなっていました。……それでもいいのです。



 




 ……弟たちが死んで、二年が経ちました。私と伝也さんの関係はまだ続いています。夫はというと……“防風”の策につきっきりです。


 秋の夕暮れ。私はいつものように伝也さんのお屋敷へ行こうとしました。ところが豊前屋の徳司が止めます。


 “私はあなたと成田様の関係を知っています。……殿に知られる前に、別れなさい。さもなくば、私から伝えます”


 秘密の関係が、ばれたのです。私は伝也さんに言います。すると、伝也さんは答えました。


 “……為信から逃れなければ、二人の命はない”


 どうするのですか。



 “……殺そう”


 私の心は、為信から離れています。しかし……殺すだなんて。恐れ多いことです。すると伝也さんは言います。


“あくまで、為信は大浦家の婿だ。俺が代わりとなって、おさまればいい”


 ……そんなこと、できっこありません。為信を殺せば、他の家来たちがすぐに駆け付けて来るでしょう。目の前で伝也さんが倒れるのを見たくありません。……人が死ぬのはこりごりです。


 “大丈夫。その時はお前が、大浦の一人娘として俺をかばってくれ”


 伝也さんは決意を固めたようです。……私は、信じるしかありません。


 もし……伝也さんが殺されたら、私も一緒に逝きます。

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