9-3 不貞
為信は変わりました。私に慰めの言葉をかけてくれるけど、本心とは思えません。
……子ができれば、少しは違ってくるでしょうけど。夫と会って五年。結ばれて一年。夫の来る回数は減るばかり。もちろん、忙しいのはわかります。
そんな私の話し相手は、いつも弟たちでした。鼎丸と保丸、二人はとても可愛くて、まるで私の子供のよう。……今はひとりぼっち。
心の隙間を埋めたい。そう思いました。すると侍女らは言います。
“最近、中央で茶道が流行っていると聞きます。領内では、城下の豊前屋という商人が嗜んでいるそうです。一度、顔を出してみたらいかがでしょう”
聞いたときは、正直行く気になれませんでした。日々を泣いて過ごしています。瞼を閉じると、かつての光景がまじまじと見えます。再び開くと、何もありません。
……寒い冬が過ぎ、春を迎えました。夫は北の方へ行くようになりました。なんでも“防風”の策を練るといいまして、私と会うことはめっきりなくなりました。わざと避けているのでしょうか。
私はこの時……侍女の言っていた“茶道”なるものをやってみようと思い立ちました。豊前屋へ数人の侍女と共に出向きました。
すると徳司なる者を中心に五人の男がおりまして、茶道の稽古をしておりました。今回は男だけでしたが、いいところの淑女も来るそうです。
椀に注がれたお茶は最初こそ渋いと思いましたが、後になって舌の上にほのかな味わいが残ります。
心の隙間を埋めるには相応しいものと思えたのです。
それからというもの、豊前屋に入り浸りました。夫も許してくれています。
しばらくして……私は出会いました。そのお方は、成田伝也というお侍です。きっと大浦の家来なのでしょう。
……恋に落ちてしまったのです。
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