9-2 贖罪
“ねえ……あなたが殺したの”
戌姫は為信に問う。
“そんなはずなかろう。殺したのは兼平だ”
“わかってるわ……そんなこと”
滝本の言葉……。もしや為信は、兼平を使って二子を殺させたのか。
せめて、滝本はそう思っている。間者からの情報によると、為信に二子を殺そうという企みはあったらしい。このことを公言すれば、大浦家は大混乱だ。為信もただで済まない。
滝本は事の次第を、山を越えて三戸の南部信直に報告。亡き大光寺の従兄弟、北信愛にも伝えられた。
当然ながら心象は悪化する。特に信愛は、為信が大光寺を殺したと疑いを強めた。一方で信直には、まだ信じたい気持ちがある。
……疑心暗鬼。秋の収穫を終え、冬に入る。戦は起こらぬまま、新年も迎える。
当然、滝本は大浦家にも“為信、疑い深し”との一報を入れていた。しかし目論見ははずれ、ほとんどの家来はそれを信じない。
なぜなら、当日も“津軽郡代”に関する話し合いがなされていた。鼎丸様を大浦家当主とし、為信は郡代になり新しい家を興す……二子を殺す理由がないのだ。兼平という気違いが起こした事故でしかない。
……一方で森岡は、無言の抗議を行う。彼のことを詳しくいうと名は信治といい、息子は四人いる。その誰かに跡を継がせ、隠居しようと決意した。信元という人物が四人の中から選ばれ、大浦家に仕えるに至る。
この森岡信元、兼平綱則、そして武者修行中の小笠原信浄。三人のことを大浦三家老と呼ぶのは後の話。
とにかく、滝本の目算は崩れた。まったく大浦家中は混乱しない。まとまっている。
……ならば、次の策を講ずるまで。
為信よ、死ねばいい。罪を償え。
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