8-10 大浦一統
夕暮れ時、為信と沼田は高い櫓に集う。津軽郡代襲名の話が進んだため、二子を本当に殺す必要があるか否か。八木橋の案であれば……鼎丸は永遠に為信の下にあり。当主の座を争うことはなく、大きな力を持たせることもない。
……そこへ、慌ただしく走って来る青年が一人。兼平綱則だ。顔は青白く、息はとても荒れている。
「父上が、父上が……。」
為信は下に呼び掛けた。もしや死んだのかと問う。
綱則はその場にひれ伏す。
「申しわけございませぬ。」
どういうわけかわからない。二人は梯子で櫓から下りる。顔を上げさせ、どうにか落ち着かせようとした。
……綱則の後ろからは、家来や使用人などが慌ててこちらに寄って来る。そして叫んだのだ。
「兼平盛純殿が、鼎丸様保丸様と共に川へ沈みました。」
日は今にも落ちようとしている。小舟は底を浮かせたまま。ただ黄色い光を浴びていた。
三人の遺体は、少し下ったところで見つかる。魚を取るための網に絡まり、既に生前の形を保っていない。
戌姫は、二子を抱きよせた。そのまま城へ帰るという。二人を抱えるのは難しいはずだが、どうしてもという。為信は無理やり引き剥がした。
戌姫は、泣き崩れる。
為信は、沼田の方を向いた。沼田は首を振る。
日は沈む。月は無く、真っ暗な夜。
兼平綱則は、為信と密かに会う。父の遺言を伝えた。
“大浦家は本筋のみの物ならず、家来領民の物なり。家中の乱るること、家来領民が苦しむに至る。先君一人の意思により、全てを決めるべき事ならず”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます