大千同盟 元亀二年(1571)晩夏

命乞い

8-1 後始末

 猛暑、日が田畑を満遍なく照らす。九戸の城中の兵ら、外で囲む信直の軍勢どちらも汗だくで、布切れなどで顔や胸元を拭く。


 ……攻めようにも九戸城は奥羽一の堅さで、崖が際立ち道も細い。戦いはしばらく続くかに思われた。そこへ南部晴政側室の彩子が和睦の使者として信直の陣中に現れる。彩子は九戸勢とともに城にこもっていたが、信直も無下にはできないだろうということで選ばれた。確かに彼女はかつて鶴千代を産んだ。それだけに立場も高い。


 信直としても、これ以上の遠征はきつい。兵は疲れ、郷里へ帰りたがっている。それに……あっけなさも感じていた。かつて私を追い詰めた奴らは、逆に囲まれている。私は死ぬ気だったのに、いまだ生きながらえている。世の行く末は、分からぬ。


 ここまでくると、恨む心も薄れてきた。あれだけ燃えたのに……不思議だ。



 交渉の結果、信直は正式に南部氏第二六代当主に就任。三戸の実権は彼に移る。九戸らの力は大いに削がれた。


 こうなると、次は津軽の後始末だ。旧石川領の扱いをどうするか。今は大浦家が石川城を治めているが、どうもきな臭い。先に使いとしてきた科尻と鵠沼という人物が反乱を起こしたというが……為信も一枚かんでいまいか。毒殺されたときも己のみ生き残り、結局は大浦家が得をしている。


 ……あの為信だ。そうでないことを祈るが……。北信愛は特に厳しい。なぜなら殺された大光寺光愛は彼の従兄弟だからだ。大光寺は為信を疑っていた節があるという。



 一方、津軽では……九戸が屈服したことで慌てた人物があり。千徳政氏だ。九戸派と万次党で手を結び、千徳もその中に入った。ところが企みは失敗し九戸派は信直に敗走、万次党はあろうことか為信に従った。千徳は孤立する。


 大光寺城代の滝本重行は、そこへ策を講じた。浅瀬石の千徳本家に対し、田舎館の千徳分家を歯向かわせたのだ。


 “九戸の手助けがない今、いち早く本家を裏切り我らの下に入るのが上善”


 この後、滝本は分家当主の千徳政武を連れて大浦城へ出向いた。為信に言う。


 “今こそ、裏切り者の千徳政氏を滅ぼそうぞ”

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る