7-10 本心

「科尻と鵠沼、二人の企みに気付けなかった罪は、万次を殺してこそ償われる。」


 小笠原は動揺した。為信は真顔で続ける。


 「急にとはいわん。もちろん、お前は万次にも恩はあろう。だがな、だからこそ、お前にケリをつけさせる。」


 なかなか頷くことはできぬ。そのまま硬直する。次に為信は、沼田に顔を向けた。


 「沼田殿は近くにいただろうから存じておろう。こういう者らはいないか。」


“例えば、九戸を裏切り大浦に従うのは節操がないと思う者。助けようと思えばできたのに、科尻と鵠沼を見殺しにしたと非難する者、あるいは殺した張本人であるこの為信に従うのを良しとしない者……”


 沼田は“確かにいます”と言い、頷いた。


「沼田殿はこれらの者に近づき、意見の異なる者同士を憎しみ合わせるのだ。」


 “しかる後に、小笠原が万次を暗殺する。仲間内の誰かが殺したと思うだろうな”



 ……この人物は……為信なのか。沼田も思った。前とは違う……何が違う。



 沼田は、為信に問うた。


「それは、“本心”ですか……。」


 為信は、一瞬止まる。


 少しだけ考え、真顔で問いに返した。



「“本心”ではないが、やらねばならぬことだ。」


 万次が従っても、いずれは牙をむくかもしれぬ。ならば今のうちに犠牲を払ってでも、虞をなくす。……生き残るために。不確かな”運の強さ”などに頼ってられぬ。



 


 沼田も察する。為信は死地を通った。世の厳しさ、哀れさ。すべてを見た。私には到底想像つかないような情景を。


 最後に為信は立った。小笠原に言い放つ。


「これができぬならば、もはや大浦家臣ではない。」

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