7-9 命令

 梅雨が明けた。今年は特に、高々と日が照り付ける。為信がいつもの通り政務を始めようと筆を取ると……家来が知らせに来た。


 「門の先にて、“沼田祐光”と申す武士が、殿に会いたいと参上しております。」


 沼田……。聞いたことがない。誰だろうと思い、為信は門が遠くから見える櫓に移った。すると彼は……面松斎だった。占いをするときの変な恰好ではなく、凛々しい姿。正装の直垂、それも紺色が辺りの光で輝く。これほどまでに印象が変わるものかと驚いた。


 為信は城中に、面松斎を招き入れた。面松斎改め、沼田祐光は為信に伝える。


 「私はこのたび、万次様の使いとして参上いたしました。」


 ふっ……。


「万次様は、殿と会って話がしたいと仰せです。」


 とうとうきたか……。


 為信は人払いをし、新たに小笠原だけを呼んだ。この広間にいるのは為信と沼田、小笠原だけ。

すると沼田は急に声をあげ、為信の傍によった。そして両手を握り、額を甲につける。しばらくはそのままで、感無量の至りといった感じであった。為信の無事を心から祝う。




 ここで為信は、沼田に問うた。


「万次は、根をあげたのか。」


 沼田は答える。


「先々のことを考えてのことでしょう。九戸派は不利ですし、港の権益も殿が締め上げているせいで入りにくい……。先細りは確実です。そこで殿と親しい私に、白羽の矢が立ったのです。」


 為信は、沼田の手を一旦ほどいた。脳が急回転をし始める。


 ……沼田は、初めてみせる為信のその顔に戸惑う。ぼーっとしているような、一方で鋭い気を感じる。






 しばらくして、為信は口を開いた。


「小笠原。お前、万次を殺せ。」

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