8-2 不在
夏はそろそろ終わろうか。穂が垂れるには早いが、きたる収穫が待ち遠しい頃合い。
大浦城では、家来を集めて話し合いがなされた。広間の上座には大浦為信。手前には森岡や八木橋は当然のこと、新しく沼田祐光も座る。誰を家来にしようとも、反発する者はいなくなっていた。
……為信は家来の顔ぶれを見る。二人ほどいるべき人がいない。兼平と小笠原だ。為信は森岡に問う。
「はっ……。兼平殿はその……臥せっております。」
伏せる……。どこか調子が悪いのか。
「いえ……先の騒動で、娘をなくしております。気の病でしょう。」
娘が嫁ぐのは誰もが通る道。しかしまさか毒殺に巻き込まれるなど……誰が考えようか。“仕方ないな” と思いながら、次に小笠原のことを訊く。
「はい。……武者修行とか。」
内実は知っている。小笠原は万次を確実に仕留めるために、大浦家を離れた。性格からして、逃げたのではないことだけはわかる。……もちろん、他の者は沼田以外知らない。
森岡は一旦落ち着くと、手元にある長い文章を手に取り、本題に入った。いつもなら兼平の役目だが、彼はいない。代わりに役をこなす。
「さて、浅瀬石の千徳をどうするか否か。意見のある者は申されよ。」
森岡はそういうと、すぐに隣の八木橋に顔を向ける。心積もりがある前提だ。八木橋は苦笑する。
「千徳の仲たがいの噂は前々から聞いていましたが……まさか我らより滝本様が先手を打つとは思いませんでした。」
為信は頷く。
「このたびは滝本様の手柄。大浦家が旧石川領を持ったように、滝本様が浅瀬石を持つこととなりましょう。」
そうなれば、滝本の力は強まる。いつか大浦の敵になれば恐ろしい。あの武勇知略に優れる男……味方ならたいそう心強いが。
そんな彼は大光寺の遺子を抱え、ずっと忠義を果たしている。
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