7-4 凶刃

 為信は迷わない。甘さは既に消え失せた。


 二人は縄で縛られ、身動きはできない。正座の状態で、救いの裁きを待つ。



 まずは科尻。凶刃は、彼の首に振り落とされる。辺りには血のしぶきが飛び散った。隣に座す鵠沼の頬にも付く。


 鵠沼は、恐れおののいた。為信を、畏怖の目でみる。これがあの殿さまなのか。同じ人物なのかと。


 ここで為信は、滝本へ顔を向ける。滝本は“私のことは構わず、やりなさい” と為信に譲った。

鵠沼の前へ立つ。躊躇うことなく、科尻と同じように首を切った。


 二人の体は、前かがみになっている。首は、そこらへんを転がる。その様を為信の後ろで兼平と森岡も見ていた。


 兼平は為信にこのような一面があったのだと心寒くなる。森岡には“当然だ” という気持ちもあったが、将来に対する一抹の不安も覚えた。すなわち鼎丸と保丸だ。こんなに冷酷になれるのなら、二子を殺すのもたやすいだろう。私はその時、傍でだまって見過ごすことができるのか、いやできない。



 事は終わり、為信は後ろに侍る兼平と森岡に近寄る。おもわず、後ずさりをしてしまった。為信は二人に問う。“小笠原はどうした” と。


 兼平は、恐る恐る答えた。


「実は……自害しようとしておりました。」


 為信が大浦城に戻る前、家来一同が相談しているとき。小笠原は遅れて広間に現れた。鎧兜は身に着けず、普段着のままだった。……彼の顔は青い。自分付きの家来である科尻と鵠沼が反乱を起こしたのだ。知らなかったとはいえ、責任は重い。


 “腹を切り、お詫びいたす” と言うなり、広間の真ん中あたりに座った。着ていた粗末な服を勢いよくはだき、短刀を片手に持つ。慌てて周りの者が止めに入った。

悪いのは二人であって、小笠原殿は悪くない。死ぬよりかは手柄をたて、忠義を尽くすのがなによりだ。……やっとのことで、思いとどまらせる。

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