7-3 深慮
“甘さなどない” と示した。ならなぜ、二子を助けるのか。
うやむやのうちに鼎丸と保丸共々石川城を攻めて殺してしまえば、後継者はただ為信一人。立場は保たれ、家督を譲る必要はない。後々に何かしらで争う可能性も消える。兵力にしてもこちらは千五百に敵兵五百。後に来る大光寺の滝本勢を併せ二千以上。戦えば勝てる数だ。
だがもし、敵兵をすべて己の下にできるとしたら……。元は大浦家の名において集められた軍勢だ。喜んで為信に仕えるだろう。こちらの犠牲も出さずに済む。
二子が城中からいなくなればどうなる。科尻と鵠沼は、支えを失う。兵らには乳井の仲間を通じて、不義の輩だと吹き込む。そうなれば、逃げ出すしかなかろう。
加えて、二子の命を今は保った方がいい。助け出せたことで、自らの信用は増す。
乳井には、為信がぼんやりとして見えている。それは……表情まで力が回らないだけだ。頭脳が激しく働かせるせいで、とうとう顔の動きを放棄した。
生きるために、考える。
“生きてこその大事”
生き残らなければ、己が叶えたいことは実現できない。
何を成せばできるのか、必死になって考えていた。だからこそ、ぼんやりとして見える。
……全て、為信の目論見通り進む。二子は夜の闇に紛れて城から抜け、為信の本陣に着いた。科尻と鵠沼は数日の間は城中にこそいたが、とうとう五月十日の夜に脱出を試みた。
その様をみた城中の兵らは“逃げるのか” と罵り、ついには捕らえてしまう。そして外の軍勢に降伏、科尻と鵠沼は差し出された。
翌日、滝本軍も現地に合流した。二人の罪人を目の前に、いかようにするか。滝本にとっては主君殺しの大悪人。為信にとっては……昔、火縄の訓練を手伝ってくれた家来。
彼らは目で訴える。
“殿に、俺らを殺せるのか”
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