6-10 事態
“私のことは、乳井とお呼びください”
為信は、薬師乳井の馬の後ろに乗る。……感情の起伏を、どういたせばいいか。怒ればいいか、叫べばいいか、はたまた嘆けばいいか。……ひとつ問う。
「お前は、このこと知っていたのか。」
乳井は否定した。ただし、己の仲間には“救民”の軍勢に参加している者もいるという。
……かつて、乳井は岩木山に住んでいた。二年前の正月のこと。一揆勢に大寺を落とされたとき、彼らは出羽の羽黒山で修行していた。帰る寺を失い、各々特技を生かして暮らしている。
しばらくして、大浦家が軍勢を募っていると噂が流れたという。ならばそこへ協力して、岩木山の復興を成しえようと仲間らは考えた。
…………
日は山に隠れ、月が昇る。為信は大浦城へ戻った。家来らはたいそう喜び、急いで軍議の場へと連れだした。
兼平や森岡ら臣は、甲冑で身を固める。城の周りは松明で輝く。いつ出陣してもよい、万全の態勢だ。
広間にて。為信が上座に着くと、一同はひれ伏す。
落ち着いた声で、皆に問う。
「今は、いかなる状況だ。」
兼平は答える。
「はい。大浦家を騙る“救民”の軍勢は、堀越を落とし、石川城を占拠。千徳の援軍と共に、ただいま大光寺城を攻めております。」
「首謀者は誰だ。」
森岡は大声で怒鳴った。罵った。
「あの、科尻と鵠沼だ。はっはっ……笑えてくる。」
科尻と鵠沼は大浦家の名を使い、軍勢を募った。かつて大光寺の “山奥で秘密裏に兵を集めている”話は事実。
森岡はさらに声を張り上げた。
「鼎丸様と保丸様。お二人の命は奴らの元にあり。主筋が盗られたぞ。」
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