6-9 唯一人
夕暮れ、日は落ちかける。為信は一人、厠で気を取り戻す。
体のあちこちが痛い。それでも少しばかりは楽になったか。
大広間へ向かおうと、厠の戸を開ける。
……どす黒い血で、壁に弧が描かれる。これは刀の先端から、勢いよく飛ばされたか。廊下には、手ぶらの人が倒れている。それも一人ではなく、二人、三人……。傷は深く、骨まで見える。
ここに、生きている者はいない。
大広間では、名士らが哀れな姿となっていた。為信は大光寺の体を起こし、顔を覗いた。灰色に変わり果て、口周りに血がこびりついている。……毒のせいか。政信も同じだった。
このようなこと、誰がした。
何のために。
何の恨みがあって。
遠くで、足音がした。為信は部屋の奥まったところに身を隠し、刀の鞘に手を当てる。
誰か来る。
襖の向こうで、足は止まった。
敵か、味方か。
…………
……いかつい顔の男が、武具を身に着けた姿で現れた。その場で片膝をつき、為信に一礼をする。
「よくぞ、ご無事で。」
為信は問う。薬師は答えた。
「生きていると、信じておりました。」
……今は逃げましょう。早く大浦城へ。家来が心配しております。
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