5-5 忠誠心

「仔細を伝えず、“村を焼討する” とだけ言え。」


 兼平と森岡は驚く。森岡はまた文句をいおうとしたが、先に為信が制した。


 「私の命令で、どれだけの家来や兵が動くか試してみたい。それが乱暴な話だとしても。」


 家来たちの中に、いまだ心服していない者がどれだけいるか。参じた者は、為信がために忠を尽くすだろう。


 ……森岡は口をつぐみ、だまってうなずいた。彼はすでに“単なる婿殿” と見ていない。ほかの者も“為信公は優秀だ” との評だ。ただし、それが本心かどうか。ほかの者につられて、話を合わせているだけかもしれない。婿殿はそこが心配なのだろう。


 森岡は“やりましょう“ と為信に言った。兼平もそれに続いた。かくして三日後、”焼討する“ と大浦の家来衆に命が下された。訳は伏せられたままだ。


 敵の陣地を燃やしに行くのならまだしも……自領で、一揆や反乱が起きたわけではない。罪なき民を下すのかと、行動をするのは躊躇われた。


 しかし……殿が言う事だ。何か考えがあってのことかもしれない。かつて偽一揆を秘策にて終らせた手腕、これまでの統治能力の高さ。いきなり朦朧するはずがない。


 結果として、ほとんどの家来と兵が野崎村に集まった。


 天上は青い。空風が吹き、落ち葉が田んぼのあぜ道で舞う。千五百の兵は、誰もいない野崎村を囲む。いよいよ中へ入るかと、兵らは意気込んでいる。


 ……森岡も到着し、村のことは全て整ったと為信に伝える。ここ兼平が皆にネタばらしをした。軍事演習は、手際よく村を包囲することから始まる。刀を持つ者、槍を構える者。銅鑼や太鼓をもって、中の敵を怯えさせる者。これらをいかに効率よく動かすか。これは家来だけでなく、大将の訓練でもある。同じくして、目を家来らに向ける。動きのいい者、際立つ者あるか。



 ……日は高く昇る。兵はさらに集まる。


為信は頃合いを見計らい、皆に命令を出した。


 「これより兵を二隊にわける。目標を村に潜ませてある故、先にそれを見つけること。民家や道にはいくつもの罠が仕掛けてあるゆえ、気を引き締めて進むように。」

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