5-2 選択

 久慈信義は為信の兄である。彼の手紙は秘密裏に大浦城へ届けられた。為信は大変驚き、夜遅くに兼平と森岡を呼び寄せる……。


 ろうそくの火は揺れながら、燃え続ける。話す人の反対の方へ煙がたなびくかと思えば、もう一人の強い息遣いでまた別の方へ流れる。


 為信はいう。


 「……悩ましい。」


 九戸をとるか、信直の下につくか。大浦家の行く末が決まる。判断をたがえれば、家は滅びる……婿殿にとって、荷が重い。


 兼平が口を開く。


 「恐らく、他の家にも誘いがありましょう。」


 津軽に石川家が入って日は浅い。石川高信公は既に亡く、次子の政信が新たに郡代となった。もし先代が存命であれば、軍を率いて助けに行っただろう。ただし政信公はそこまで至らず。今回のことで彼の決断力の鈍さが露呈した。


 諸氏は情勢をどう考えているだろうか。……石川家の下、津軽で大きな力を持つのは主に三家ある。大光寺、千徳、そして大浦。大光寺は石川家随一の重臣、千徳は穀倉地帯を有する。大浦家は港から金銭の収入が多い。この三氏のいずれかが九戸につけば、均衡は一気に崩れるだろう。



 ……ここで森岡は、兼平に耳打ちをした。兼平は少し戸惑ったようだったが、話すことを許す。


 「殿、これまで通り信直様につくのがいいと存じます。」



 為信はいぶかしむ。森岡は続けた。


 「実は……私と兼平は、見ていたのです。鹿角合戦で殿が信直様をお助けになり、手柄を譲ったことを。」


 兼平もうなずいている。為信は困惑こそしたが、すぐに真顔に戻した。二人に問う。


 「他の者に知れているのか。」


 兼平は即座に嘘を返す。


 「いえ、二人だけの秘密にて。」

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