野崎村焼討 元亀一年(1570)初冬
密談
5-1 手打ち
田子信直は北信愛の勧めに応じ、一旦は北氏の剣吉へ、後に南部分家の八戸政栄を頼ることにした。
九戸氏を中心とする信直追討軍は八戸の手前で足を止める。八戸氏は家督争いにおいて中立を保っており、ここで戦えば敵を増やす結果になる。しかも津軽の軍勢がいつこちらに牙を向けるかわからない。
事実として信直の弟の石川政信は、津軽の諸将に出陣の準備をするように命じた。ただし“準備”までだ。なぜなら兄は主君を殺そうとした極悪人とされる。これを公然と支援していいものなのかどうか躊躇われたからだ。
そうしているうちに、秋が終わろうとしていた。両陣営とも膠着状態のまま、事態の打開を見いだせない。
頃合いを見た北信愛は、和睦案を提示した。
“一つ、晴政公は信直の罪を許す”
“二つ、信直は田子の領地を返上す”
“三つ、信直は当分、八戸に謹慎す”
信直の妻に関しては、すでに出家していたため、復縁は叶わなかった。どういう経緯であっても信直が大殿を殺そうとした事実は否めず、大幅譲歩した形となった。
そして南部家後継は唯一の娘婿となった九戸実親。ひとまず九戸氏の勝利である。
……ただし、近いうちに戦端は開かれるだろう。晴政は右のふとともに大きな傷を抱え、次第に膿が溜まっていく。熱があり回復の兆しもない。短いうちに亡くなると誰もが考えた。
とある冬の始め、九戸城。空風が吹き荒れ、あたりの葉を散らす。糠部の地は、雪が遅い。
九戸政実は弟の実親や仲間たちを呼び、後継を確実なものとするための話し合いを持った。
政実は、ひとつ咳払いをする。そして語り始めた。
「津軽の軍勢が一番厄介だ。何か方策はないか。」
部屋を見回す。仲間らは腕組みをして悩む。そんな中、一人が顔をあげて、前へ進み出た。
「私の弟が、津軽の大浦家に婿で入っております。彼に密書をしたためておきましょう。」
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