4-3 哀しさ
夜となり、風はさらに強まる。信直は外付けの廊下を歩き、離れにある一室へ向かった。そこには妻の翠姫と娘の美が住まう。
襖を開けると、翠姫は幼いわが子を抱いて、ゆったりとあやしていた。妻は信直に気が付くと、“そろそろ木戸も閉めて、備えなければなりませんね” と、にこやかな表情で話してくる。
信直は襖をしめる。翠は赤子をつぐらのゆりかごに移した。すやすやと眠っている。
信直はその様を見て、少し安心した。同じくして、心の中に何かが込み上げてくる。おもむろに傍に座し、次に妻の両肩をつかんだ。翠は不思議そうな顔で見つめてくる。
「どうなさいました。」
信直は肩から腰に手を移し、妻を抱きしめた。
静かだが、力強く言った。
「守るから、絶対に守りきる。」
翠は何も知らない。改めて主人の顔を見ると、どこか寂しそうだ。
……しばらく、そのまま互いの体は動かない。翠は口を開いた。
「……何かあったのですか。」
信直は、小声で返した。
「お前は、知らなくていい。」
外では風のみならず、横なぶりの雨も加わった。台風は、南よりこちらへと迫って来る。いつものように、夜のうちに抜けるかも知れないが。
……木戸を閉じると、ガタガタと音が鳴る。そんな中、二人は布団に揃って眠りについた。信直の心は外とは違い、だいぶ落ち着きを取り戻せていた。
朝。雨風は止む。木戸を開けると、庭先には割れた瓦が無数あった。心配になった信直は、いつもの簡素な青い直垂を身に着け、館より下へ見回りに出た。
田子の田畑は荒れ果て、木々の小枝がいたるところに落ちている。屋根ごと潰されている家もあった。
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