4-2 嵐の前

 “これはいかなることぞ”



 信直は困惑した。大殿は、娘を返せと仰せだ。……盲目しておられる。後継をとられることを怖れ、ここまでするとは……。


 信直は言う。


 「……大殿も心を落ち着かせれば、いずれ撤回するだろうが……。」


 「殿、ではどうなさりますか。」


 心は決まっている。“離縁するはずなかろう” とそっぽを向く。第一、後継のことなれば九戸実親も離縁しなければなるまいと、不公平だとも感じた。


 家来らはうろたえている。“もし大殿のお考えが変わらなければどうなさいます” “お子はどうなりましょうや” とめどなく信直に問いかけてくる。


 信直は叫んだ。


 「あーうるさい。やかましいわ。」


 私だって、同じ心うちだ。わざわざ言われなくてもわかっている。……念のため、手を打っておくか。


 「泉山、頼めるか。」


 家来の泉山は信直の元へ駆け寄る。


 「お主に願いする。今から三戸に向かえ。北信愛殿にこの件をお話しし、大殿を諫めていただきたい。」


 「早急に致します。」


 泉山は大きく頷き、小走りで部屋を後にした。信直は大きく息を吸い、そして吐いた。


 残った家来らに問うた。


 「して……裏にいるのは誰かの……。」


 “九戸殿だ” ”九戸しかあるまい“ と口々に言う。


 九戸に、恨みは募る。口車に乗せられた大殿も問題だが、彼はあくまで己より早く去る人間。同じ時を生きる九戸兄弟を早いうちに何とかしておかないと、安心して眠れやしない。


 信直は気分を変えるため、館の外へ出た。風が少し強い。南から吹いてくる。

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