4-4 凶報
今度の年貢は望めまい。ヤマセは弱く、日が高々と暑く照りつけ、作物の育ちも順調だった。しかし大きな嵐で、すべてがなぎ倒されてしまった。
株大根のような土物はいいだろうが……米はだめだ。農民の暮らしに直結する。この分では田子はおろか、三戸辺りも不作だろう。
信直は家来らに命じて、自らも率先して後片付けを始めた。家を失った者を館に呼び、誰かが死んだ家には葬儀をだしてやる。田畑も共に耕した。これぞ為政者の鏡である。
……救民に明け暮れて、夏は過ぎようとしていた。そんなとき、とんでもない話が三戸よりもたらされた。家来の泉山が早馬で、畑を耕す信直の元に参上した。
彼は息を切らし、今にも倒れそうだ。信直の泥がついている顔を見るなり、そのかすれた声で訴えた。
「大殿が、大殿が……。」
“なんだ。大殿がどうしたのだ”
「兵を集めております。」
周りの者は鍬を止め、泉山に目を移す。彼は続けた。
「大殿は兵を集め、若を討たんとしております。」
泉山は、その場で力尽きる。体は横に倒れ、気を失った。慌てた周りの農夫は彼を館へと運び、気が戻るのを待った。
……南部晴政は、田子信直を討たんと五千の兵を集めた。“信直はいまだ離縁せず、それはきっと後継の目を諦めていないからだ” そのように九戸政実は讒言した。
泉山はその話を聞き、飛んで田子に戻ってきたのである。
信直は憤りを隠せない。台風の被害で民が苦しんでいるこのようなときに、何を考えているのかと。田子と三戸も荒れ様は同じと聞く。大殿に、民の声は届かないのか。
本来であれば、こちらが引き下がるいわれはない。正々堂々と戦ってもいい。
しかし……民は戦を望まぬ。特にこのたびは無益の極み。お家の内輪もめ。
……信直は隣にいた農夫から手拭いを借り、泥の付いた顔を拭いた。そして、離れにある一室へと向かう。
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