3-4 実演
“それは真か”
理右衛門はたいそう軽やかであった。
「はい。為信様には、鯵ヶ沢の警護を強化していただきました。これはほんのお礼です。」
為信は身を乗り出して、理右衛門に請う。
「火縄をここに持ってきてくれ。」
手代は火縄を、布に何重にも包まれた状態で、恭しく慎重に抱きかかえて持ってきた。それほど貴重な代物である。
厚い布を、一枚一枚広げていく。すると真っ黒な筒が現れた。光を受けていないのに輝き、辺り一面に煙の薄い臭いが立ち込めた。
為信は手に取る。しばらくじっと眺めた。筒の穴を覗いたり、縄のところを触ってみたり。
「して……どうやって撃つのだ。」
ここで初めて理右衛門は、困った顔を見せた。“それがわからないのです” と。面松斎も知らぬという。もちろん、手代もだ。
「為信様のご家来衆で存じておる者はいないでしょうか……。」
なに分、田舎侍の集まり……為信のように、見たことのない者も大勢いよう。……いるか。小笠原ならどうであろうか。
翌日、為信は面松斎を連れ立って小笠原の元を訪ねた。科尻と鵠沼もいる。小笠原に火縄は撃てるかと問うと、こくりと頷いた。全員、庭にでる。
科尻は少し欠けている不要な茶碗を用意し、遠くの台の上に置いた。鵠沼は筒以外にも必要なものがそろっているか確認した。
さて、小笠原は言葉を発っせずして支度を始める。筒に付いてあった長い木の棒を外し、火薬と弾を筒の中に押し込めた。手元にある火皿と呼ばれる小さな隙間に、口薬を入れる。縄に火をつける。
ジリジリと音を立て……火蓋を切る。弾は一瞬で飛んだ。
茶碗は、砕け散る。
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