3-5 身内の仲

 小笠原は表情を変えず、一つ頷いただけである。筒を上に向けて、持ち手を変え、為信の方を振り向いた。


 「……雪国には、向きませぬ……。」


 ほう、このような声であったな。久しく彼の声を聴いた。……しかし雪国に向かぬとは、どういうわけか。科尻は言う。


 「火縄は、湿気をたいそう嫌います。夏はいいでしょうが、冬はどうなることか。」


 このあたりは、体が埋もれるほど積もる。そのような欠点があろうとは……。しかし、為信の決断は変わらない。


 「小笠原殿……火縄を教えてくれまいか。」


 科尻と鵠沼は、“いやいや殿にそのような恐れ多い……”と、小笠原に目をやる。小笠原はだまって、首をすんとも動かさない。


 傍らで話を聞いていた面松斎は、為信のために口を添えた。


 「ますます、他国者は認められましょうな。」


 科尻と鵠沼は口をしかめ、考え込む。そうしているうちに、小笠原は……


 「……主命なれば……なんなりと。」


 為信は喜ぶ。面松斎も、まるで弟のことかのように嬉しかった。対して科尻と鵠沼は暗い顔。この二人はいったい、何を企むのか。


 

 ……為信は、気持ち晴れやかなままに城へ帰った。が、肝心なことを忘れていたのを思い出す。妻の戌姫だ。


 次第に外は暗くなり、お日様はお山の向こうへ隠れようとしている。……為信は、密かに居間へ向かう。


 ……戌姫は、歳の離れた弟二人と鞠で遊んでいた。こちらに気付くが……つれない。


 顔を背けたまま、“おかえりなさいませ” と言う。為信は“うむ” とだけ言い、隣に座った。為信は “鼎丸、保丸” と呼び掛ける。二人はこちらに顔を向けるが、少し怖がっているか。




 戌姫は、二人を抱き寄せた。

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