3-3 進呈
「この図面、しばらく借りてもよいか。」
為信は手を合わせ、二人に懇願する。二人としては、なすすべがない。
そうして為信は帰っていった。
“…………危ないところだった”
“殿自ら、下々のところに来るとは”
“今後は気をつけねば”
道すがら、為信は考えた。鯵ヶ沢の大家主と言えば、一人しかいないだろうと。理右衛門だ。そこで面松斎は世話になっているか。
話の種として、火縄のことも話してみよう。
山々の頂上の葉は落ちきり、平野にかけては丁度紅葉の見ごろである。理右衛門屋敷の庭先モミジも、鮮やかな様であった。
為信が客間で茶をすすっていると、渡り廊下より面松斎が、着飾った格好でやってきた。
「為信様、お久しゅう。」
思わず、大きく笑ってしまった。面松斎も故はわかっている。
「客もそれ相応のものを望んでおります。……仕方なしにこのような……。」
手を曲げて、いかにも芸者のような身振りをする。“大占学者”としての雰囲気とはいかなるものか。
落ち着いたところで、面松斎は客間に入る。早速、火縄の図面を見せる。
「確かに……こちらはこういうのが遅れておりますな……。」
面松斎は相槌を打った。為信は言う。
「一度でもいいから、触ってみたいのだ。」
“……そうなると、やはり理右衛門様ではないですか”
“理右衛門のう……”
為信は、この家の主人である理右衛門を呼んだ。理右衛門はいつものように朗らかで、大黒様のようでもあった。火縄のことを言ってみると・・・。
「一丁だけ、持ち合わせております。よろしければ進呈いたします。」
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