鹿角合戦 永禄十二年(1569)秋
他国者とは
2-1 港の春
梅が咲く。その薄い花弁は、潮風でひらりと舞い落ちる。池の水に浮かび、鯉が餌だと勘違いをして口を開ける。この有り様はなんと平和なことか。
ここは鯵ヶ沢、津軽きっての港町。大浦家が種里城に本拠を置いていたころより、重点的に保護してきた。種里より赤石川を下れば、かの地につながる。……港から得られる利益は多い。
南部氏は代々大陸的な統治志向で、海には目を向いていない。そんな中でも大浦家は、海洋的な性格も持ち合わせていた。かつてこのあたりは安東領であったためだろうか。
……船問屋、長谷川理右衛門の屋敷。為信は礼をいいに彼の元へ訪ねていた。新たなる家来と会うためでもあった。三人はござに座りながら話す。
家来は言う。
「……小笠原と申す。」
この恰幅のいい男。万次はこやつがいいだろうと、理右衛門に預けた。為信は小笠原に問う。
「出身はどこだ。」
「……信州深志です。」
小笠原は愛想がないというか、……表情がない。
理右衛門は微笑みながら言葉を加えた。
「寡黙ですが、真面目な男と伺っております。小笠原殿に加えて、科尻と鵠沼と申す者も小笠原殿に付けてほしいと仰せでした。」
「では、その二人も信州か。」
「はい。武田から逃げてきた者同士だそうです。」
武田のう……。日の本で一番強い大名だ。はるばるこちらに逃げてきたか。
「よし、小笠原。下がってよいぞ。」
小笠原は一礼をし、襖の閉めて去る。為信は息をついた。彼のことを哀れだとも思えたが、偽一揆での出来事……簡単に感情を入れることはできなくなっていた。
「なあ……理右衛門よ……。」
お主は、他国者をどう思う。
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